2017年10月20日

 昨日の記事で一つ書き忘れていた。アメリカは、米韓合同演習が話し合いに応じる前提だという北朝鮮の要求に応え、実際に92年、チーム・スピリットを中止したりもした。それをふまえ、北朝鮮はNPTの査察を受け入れたわけである。南北による朝鮮半島非核化合意もその年の末に実現するが、93年は危機の高まりのなかで再開され、94年は枠組み合意を前に再び中止される。現在毎年行われている米韓合同演習は、チーム・スピリットという名前を使っていない。

 ということで、90年代初頭から21世紀初頭までの十数年間、国際社会は朝鮮半島の非核化のためそれなりに外交努力を積み重ねたわけだ。北朝鮮の側にも懸命に努力した外交官その他がいることも事実だ(1回目にあげたキノネスの本に詳しく出ている)。

 しかし、その合意は、最終的には北朝鮮側から反故にされた。その経緯を1回目に書いた高齢者大学で詳しく話したら、「やはり、対話で解決するのは難しいね」という雰囲気になってしまった。

 そこは自覚しないとダメなのである。軍事演習を中止しても、生活や工場の操業に必要なエネルギーを無料で提供しても、軽水炉(原子炉なんですよ)の供与を約束しても、日朝平壌宣言で核・ミサイル・拉致が解決したら経済協力金が得られると理解しても、そしてすべてが解決したら休戦協定が平和条約になり、アメリカとの国交正常化の展望が見えるとしても、その間、北朝鮮の体制を攻撃しないことについてアメリカが約束しても、短期的には効果があった。しかし結局、北朝鮮は核・ミサイルを開発する道を選択したというわけである。

 安倍さんが対話に前向きでないと言われるが、この経過を詳しく知れば知るほど、対話の道筋が見えなくなるのは当然だと思う。それでも総理大臣がそれではダメなんだが、総理大臣が考えないなら、他の政党が考える必要がある。

 こういう相手とどうやったら対話と交渉が可能になるのか。一つ考えられるのは、いま列挙したような「報償」とは比べものにならないほどの規模の「報償」を与えることだろう。例えば日本が経済協力するというだけでなく、その額や内容(例えば北朝鮮の全土を覆い尽くすような電化計画とか)を明示するようなことだ。でも、韓国がそういう計画を提示したことがあったけれど、機関であるエネルギーを韓国に握られるということで、北朝鮮の警戒感も相当だった。日本側もそこまで国民世論がついてくるかという問題もある。

 北の体制を保障することについても、いくら口約束しても、条約で約束しても、それは信じられないというのが北朝鮮の考えだと思われる。イラクのフセイン政権とか、リビアのカダフィ政権とか、核兵器を持たなかったことでアメリカに崩壊させられたそ末路を目の前で見ているわけだから。北朝鮮がアメリカの約束を信じられるようになるまでは、アメリカ自身が変化することも含め、気が遠くなるほどの時間がかかるだろう。

 要するに、いまの北朝鮮では、体制保障のためには、アメリカ東海岸に届く核ミサイルを保有するという、不動の信念が支配しているわけだ。先日、それができるまで北朝鮮としても対話するつもりがないと表明したというニュースが流れたが、さもありなんという感じである。

 この状況下で交渉ごとが可能になるとしたら、北朝鮮が核ミサイルを保有することを認めるという立場に立つ以外にはない。それと各種の「報償」を組み合わせることだろう。その前提でなら、6者協議の再開も含め、いろいろな取引が可能になるかもしれない。

 しかし、その選択肢をとると、国民世論がそれを許すかという問題に直面する。核ミサイルを容認するということは、核ミサイルを保有する北朝鮮との間で国交正常化し、ばく大な経済協力を行う道を進むということだから。これは日朝平壌宣言にも反することだし、そういうことを推進する政党が選挙で国民から支持されることはないだろう。

 だから、朝鮮半島の非核化という目標は堅持しつつ(目標は手放していないと国民に見せつつ)、しかし実際には、核ミサイルを保有する段階の北朝鮮とどこまで折り合うのかという決断が欠かせないのだと思う。その交渉をどう組み立てるのか。

 おそらくアメリカは、米本土に届く核ミサイルの配備を止めさせることができるなら、それ以外は容認という態度をとることだって想定される。つまり、日本に届く核ミサイルは容認するということだ。そういう合意をアメリカに押しつけられたとき、日本は耐えられるのか。非核化の目標は捨てていないということを見せるような、建前なんだけど建前でないと国民を納得させることがような道筋を提起できれば、耐えることができるのではないか。

 対話と外交を重視する政党には、是非、そのあたりの具体策を提唱してほしいです。政権交代できるほど選挙で勝つためにはそれが不可欠です。