2013年8月12日

 この本、今週中に再校のゲラを仕上げて、私の手を離れます。9月17日が出版予定日。世の中でもこの問題が焦点になりつつあるので、タイムリーなものとなるかなあ。ということで、今週は、この問題をとりあげます。金曜日にはこの本のプレゼントについて告知するので、お盆真っ最中だけど、関心のある方は訪ねてきてください。

 さて、この問題では、安倍さんの安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)の座長代理を務める北岡さんが、読売新聞、朝日新聞へと連続的に登場した。集団的自衛権推進派による世論への働きかけは、今後大規模に強まることになるのだろう。

 ところで、このふたつのインタビューの中心点は、この秋に安保法制懇が出すとされている提言(以下、新提言)で、集団的自衛権の全面的な容認へと舵を切ることにあるとされる。読売の記事のタイトルも「集団的自衛権 全面容認提言へ」となっている。これは、安倍第一次内閣の際の安保法制懇の提言(以下、旧提言)が、いわゆる4類型(米艦船が攻撃されたとき、アメリカ本土に向かうミサイルが発射されたときなど)に限って容認するとしていたものを、そういう限定を外して全て容認するようにするということを意味している。

 しかし、これは最初からミスリードである。旧提言が4類型を重視して、その実現のための論理構築をしているのは確かである。しかし、その4類型に限って憲法解釈を変え、集団的自衛権をそこだけ容認するというものではなかった。集団的自衛権を全面的に容認する憲法解釈を行ったうえで、政策的に実施するのは4類型に限るというものだったのは、当時を知るものの共通認識のはずである。

 実際、自民党のつくった国家安全保障基本法も、そのような構成になっている。つまり、自衛隊が4類型とは異なるような軍事行動に及ぶことがあるとして、その行為は法律違反に問われることがあったとしても、憲法上はどんな行為も全面的に合憲になるというのが、旧提言の趣旨であったわけだ。この種の報告書がつくられるとき、いつも「限定」したとか「制約」をもうけたとか言われるが(それが旧提言は4類型だったし、新提言でも何かのことはやると北岡さんは言っている)、集団的自衛権の全面容認という点では、ずっと一貫しているという印象を受ける。

 それなのになぜ今回、「全面容認」ということがそれほど強調されるのか。そこには、改憲勢力が衆参ともに多数を占めるに至った事態を利用し、できる限りのことをやってしまおうという意気込みが感じられる。もしかしたら、これまでは自衛隊の海外派遣に際しては、それを承認する個別の法律をつくってきたが、解釈改憲に成功し、特定の軍事行動が集団的自衛権に違反するかどうかという微妙な判断をする必要がなくなれば、そのような個別の立法は不要になるという判断があるのかもしれない。つまり、今後は、アメリカから求められたら、国会で何かの議論や判断なしに、ただちに自衛隊出動になるということでもある。(続)