2014年2月18日

 国連人権理事会で設置された「北朝鮮の人権に関する国連調査委員会」(以下、委員会)が、注目すべき報告書を発表した。北朝鮮における人権侵害は「人道に対する犯罪」であるとして、国連安保理に対して、国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう求めたという。

 ICCは、侵略、ジェノサイド、人道犯罪、戦争犯罪という4つの罪に責任のある個人を裁判にかけることになっている。今回はそのうちの「人道犯罪」にあたる。

 日本では、今回のことは、拉致問題との関係でのみ注目されている。委員会の報告のなかで拉致問題が正当に取り上げられているからだ。しかし、拉致問題を解決するという角度でみると、今回の措置に期待をかけることは疑問符がつく。

 まず、北朝鮮はICC加盟国ではないし、そういう国の指導者を訴追するには安保理の決定が必要だが、その場合、中国が反対するだろうからである。さらに、たとえ安保理が決めたとしても、北朝鮮の指導者をICCで裁判にかけるためには、北朝鮮が指導者をICCに引き渡さなければならない。北朝鮮がそんなことをするなんて、万が一にもないであろう。

 要するに、こういう裁判というのは、その国で国家体制が変わり、以前の指導者を引き渡すことを想定しているのだ。拉致問題でICCが裁判をおこなうのは、北朝鮮の現体制が打倒されたときだということである。

 もちろん、そこに拉致問題解決の望みを託すということもあるだろう。北朝鮮の人々だって、いまの体制がいいとは思っていないだろうし、われわれの目には見えず、何十年かかかるだろうけれど、変革への胎動がどこかにあるかもしれない。苦しんでいる北朝鮮の人々のことを考えれば、こういう解決方法が大事だと考える。

 だけど、日本で拉致問題の解決を望んでいる人は、そこまで先延ばしにするということでいいのだろうか。もっと早期に、被害者の家族が生きているうちに解決したいのではないのだろうか。

 そのためには、北朝鮮の国家体制打倒ではなく、北朝鮮との外交交渉に望みをかけるべきではないのだろうか。その交渉は、拉致問題の解決の見返りに、体制の維持を保証するものになるかもしれない。拉致問題の解決というのは、そういう余地のあるところが、とっても大事なのだ。

 安倍さんは、そういう妥協がいやだから、交渉せずに済ませようとしている。委員会が今回の報告書を発表し、運動関係者が沸き返ることは、交渉をきらう人々にとっては最高の結果だろう。