2014年3月31日

 来月(明日から来月だ!)の「安保法制懇」報告書の発表を前に、いろいろな議論が表に出てくる。だけど、なんだか、混迷しているなあという感じがする。

 その典型が、「外国領では参戦しない」というものだ。同じことだが、「日本の領海か公海で」という報道もある。

 これって、集団的自衛権とは海外で戦争するものだ、という宣伝文句への対応なのだろう。推進論者は世論に押されているわけだ。だけど、そういうことで、少しでも世論対策になるのだろうか。

 そもそも、外国領での参戦は憲法違反で、それ以外なら憲法に合致しているという解釈でもするのだろうか。そうではないだろう。集団的自衛権の行使(おそらく日本の防衛に必要最小限度の範囲でということにして)は合憲だという解釈改憲をやったうえで、実際に自衛隊が行動するのは外国領以外とするだけだろう。外国領での参戦は、あくまで合憲としたうえで、政策判断として除外するだけなのだ。

 しかも、日本の領土だったら何でもいいということになると、とんでもないことになる。いまでも忘れないが、アフガン戦争のとき、いまは割ともてはやされている内閣法制局が、とんでもない答弁をしたことがある。

 このとき、戦地には自衛隊を派遣しないという原則があって、どこが戦地なのかが問題になった。当時の内閣法制局は、何と、ミサイルで攻撃される場所は戦地だが、ミサイルを発射する場所は戦地ではないと答えたのだ。

 つまり、日本の領土、領海、そして公海などから相手国に向けてミサイルを発射したりしても、それは構わないということになる。これと、相手国領土における参戦のどこに違いがあるのだろうか。

 本日の読売新聞には、「基礎からわかる集団的自衛権」(上中下)の最後の連載記事がある。そこで、集団的自衛権を読者に納得してもらうため、アフガン戦争の際、NATOが集団的自衛権行使としてやったのは、アフガン領土での参戦ではなく、空中警戒管制機(AWACS)をアメリカに派遣することだったとしている。

 そうなのだ。NATOは集団的自衛権の行使としてAWACSを派遣した。日本は海上給油をやったが、それは集団的自衛権の行使ではないと言い張った。AWACS派遣が集団的自衛権なら、海上給油だって同じだろうということが、国会で問題になったのである。小泉さん、「いろいろ難しいんですよ」と言っていた。

 もし、集団的自衛権推進論者がそういう論理を使うならば、日本がアフガン戦争の際、すでに集団的自衛権を行使したことを認める必要がある。小泉内閣が憲法に違反したことを認めるべきだ。

 いま、集団的自衛権推進論者は、全体として守勢である。さらに追い詰めることが求められている。

2014年3月28日

 活字を表に出し、公衆の批判にさらすことは大事ですね。昨日の記事について専門家からご指摘を受けましたので、それを書いておきます。

 安倍さんは、米本土に向かうミサイルは撃ち落とせないのだと説得され、昨年までは、じゃあグアムだということだったらしいのです。たとえば、昨年の2月27日の参議院予算委員会では、以下のようにのべていたそうです。

 「ミサイル防衛において、日本に飛んでくるものは(撃ち)落とすけれども、グアムに飛んでいくものは(撃ち)落とすことができてもパスをしてしまう。これでもう相当たくさんの死者が出る。日米同盟はその段階において大変な危機を、終わるかもしれないという危機を迎える」

 ところが、日本が保有する迎撃システムは、一〇〇〇キロくらいの射程のミサイルを対象にして設計されているそうです。米本土はもちろんグアムに向かうミサイルも、飛行高度が異なるので、対応できないということです。そのことは政府も質問主意書に対する答弁書で公式に認めています。

 「我が国が現在導入している弾道ミサイル防衛システムは、スタンダード・ミサイルSM-3搭載イージス艦とペトリオット・ミサイルPAC-3により、我が国に飛来する射程約千キロメートル級の弾道ミサイルに対処し得るよう設計されているが、グアムや米国本土といった、我が国から遠距離にある地域へ向かうような弾道ミサイルは高々度を高速度で飛翔するため、このような弾道ミサイルを迎撃することは技術的に極めて困難である」
(昨年8月13日)

 ということで、現在、安倍さんは、最近では、「それが技術的に将来は可能になる場合」のためだと言い始めています。今年2月10日の衆議院予算委員会では、「もし将来、技術的にそれが可能となった場合、グアムあるいはハワイに向かっていくミサイルについて撃ち落とす能力があるのに撃ち落とすことはできないのか」とのべたとか。

 いやあ、すごいですね。今後は武器技術開発でも、アメリカ本土までをも守ることを目標にするんですかね。

 それと大事なことは、現在の日本のミサイル防衛システムは、あくまで日本防衛用だということです。これが配備されたとき、さんざん「アメリカ防衛用だ」と主張した人がいましたが、そうではないということです。

 ブログを書いていると、いろんな貴重な情報が寄せられます。最近では、中国が尖閣に対するオペレーションを4月に予定しているという、まじめな情報もメールで教えてもらいました。日本周辺の安全保障問題、眼が離せません。

2014年3月27日

 昨日と同じく、来月に執筆する予定の本の準備稿。この一週間、風邪で悩まされていて、クリエイティブな仕事ができないので、書いたものをアップするだけです。

(論点)
グアムに飛んでいくミサイルなら、日本周辺を通過するので、迎撃可能では?

(解説)
 「安保法制懇」は、アメリカ本土に向かうミサイルを迎撃できないことを各方面から指摘され、方向転換をはかりました。それがグアムに向かうミサイルの迎撃なら可能だというものです。これは「報告」が、集団的自衛権を容認する条件として、「日本の安全に重要な影響がある場合」に「限定」したこととも関わっています。米本土防衛のためということでは日本の安全と関係なさそうに見えるが、グアムなら日本に近いし、「放置していたら日本も危うくなる」と思わせられるので、国民の理解が得られやすいと考えたのでしょう。

 しかし、国民の理解を得ようと「日本の安全」を持ち出したばかりに、かえって道理のなさがうきぼりになっています。どういうことでしょうか。

 なぜかといえば、「日本の安全に重要な影響を与える」ような事態が発生しているとすれば、日本もいつミサイル攻撃を受けるのかということを心配しなければならないからです。そんなときに、日本のミサイル防衛システムをグアム方面に移動してしまえば、日本防衛がおろそかになるではありませんか。

 現在、ミサイル防衛が可能なイージス艦は、合計で三隻しかありません。それが日本海に配備されています。ペトリオットシステムも入間、春日、岐阜、浜松の四箇所だけです。イージス艦の場合、日本海より北にある基地からミサイルが発射されるなら、日本海にいながらグアムに向かうミサイル対処射することも可能でしょうが、南にある基地から発射されることを想定すれば、三隻すべてを日本周辺に配置することはできません。ペトリオットの場合、そもそもグアムの陸地に配備しなければ役に立ちません。そして、いったんグアムまで移動させてしまえば、日本がミサイル攻撃される可能性があると判断しても、もどすのに何日もかかってしまいます。ミサイルは、発射台に装着して燃料を注入してから数時間後には発射でき、日本まで飛来するのに数分しかかからないのですから、そんな危ういことはできないはずです。

 しかも、誰よりも当事者であるアメリカが、そんなことは望んでいないということです。一九九〇年代後半、新ガイドライン(日米防衛協力の指針)がつくられ、周辺事態法が策定される過程で、アメリカ側からは日本に対して、空港や港湾の仕様をはじめ千項目以上の要求が出されました。アメリカは、軍事作戦上必要だと思えば、日本国民がどう考えようが、強引に要求を押し通す国です。

 けれども、グアム防衛のために日本のミサイル防衛システムを使えなどということは、これまで一度もアメリカ側から要求が出ていません。そもそもアメリカは、自国の防衛を他国に依存するというような考えはありません。NATO諸国にたいしてもそのようなことを求めたことはないし、だからこそNATO諸国の基地はアメリカの領土のなかに存在していないのです。

(要点)
日本防衛をないがしろにし、アメリカも望んでいない理由を持ちだして、集団的自衛権を国民に認めさせようなどという「安保法制懇」には、日本の防衛論議を任せられません。

2014年3月26日

 毎日、何かしら話題になっているよね。「安保法制懇」の報告書が出るのが来月だから、当然かもしれない。以前予告したように、報告書が出たらすぐ、本を書くつもり(5月末発売予定)。タイトルとしては、少し長いけど、『集団的自衛権に関する「安保法制懇」報告書の論点』という感じだろうか。報告が出てから書くのだが、準備はしておかねばということで、少しだけ書いてみた。何十項目かの「論点」をとりあげ、1000字程度で解説し、最後に要点を書くという形式である。こんな感じなのだが、いかがでしょうか。

(論点)
アメリカ本土に向かうミサイルを自衛隊が撃ち落とすのは当然ではないか

(解説)
 ロケットエンジンを利用して大気圏外に打ちあげられ、放物線を描いて目標に高速で落下するミサイルのことを、弾道ミサイルといいます。長いものでは一万キロメートル以上を飛ぶことが可能で、日本周辺から米本土まで到達することが可能です。

 日本は、弾道ミサイルを撃ち落とすため、ふたつのシステムを持っています。ひとつは、大気圏外にまで到達したミサイルを、イージス艦が発射する迎撃ミサイルで撃ち落とすものです。もうひとつは、大気圏内に突入し目標に向かって落ちてくるものを、ペトリオットと呼ばれる地上に配備されたミサイルで撃ち落とすものです。

 「旧報告書」は、「米国が弾道ミサイル攻撃によって甚大な被害を被るようになれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼす」と主張しています。そして、「我が国が撃ち落とす能力を有するにもかかわらず撃ち落とさないことは、我が国の安全保障の基盤たる日米同盟を根幹から揺るがすことになるので、絶対に避けなければならない」と強調しています。

 アメリカの国土が破壊され、国民の命が失われるかもしれないと言われれば、誰もが「何とかしてあげないと」と思うことでしょう。しかも、日本にはその能力があるとなれば、保有する能力を使って助けるべきだと考えるのは、自然な感情です。

 しかし、この「旧報告書」の記述は、国民感情を利用したまったくのデタラメです。なぜならば、そのようなミサイルを撃つ落とす能力は、日本にはないからです。日本にないというだけでなく、在日米軍にもありません。

 日本が保有する迎撃システムは、あくまで日本に向かって落ちてくることを想定して、日本周辺の海と日本の陸上に配備されます。落ちてくる軌道をコンピューターで推定し、迎撃ミサイルを打ちあげるのです。本当に迎撃できるかどうかは、実戦で試されていないので分かりませんが、近づいてくるから撃ち落とせるというのが前提です。

 一方、アメリカ本土に向かうミサイルの場合、最短距離である北極圏を経由して飛んでいきます。日本からどんどん離れていくのです。遠ざかっていくミサイルを、後から打ちあげたミサイルで追いかけ、追いついて破壊するなどということは、現在の技術では不可能です。日本の技術であってもアメリカの技術であってもできません。

 実際、自民党の石破幹事長も、近著(『日本人のための「集団的自衛権」入門』)で「確かにアメリカ本土に飛んでいくミサイルを日本から撃ち落とすことは現状できません」と、あっさりと認めています。「旧報告書」では、「能力を有するにもかかわらず撃ち落とさない」のは問題だ、だから解釈改憲だと大騒ぎしたのに、実際にはその前提がウソだったことを当事者が告白したのです。改憲勢力の側は、アメリカ防衛のことさえ真剣には考えていないということです。

(要点)
技術的に不可能だと分かっていながら、集団的自衛権を国民に認めさせるためにウソをつくような「報告書」には、国民の命にかかわる防衛問題を真剣に語る資格がありません。

2014年3月25日

 クリミア問題がどう動くか、まだ分からない。大国が力尽くで領土を奪ったとき、それを奪い返すのは、そう簡単ではない。

 ロシアにクリミアを放棄させるまで効果的に経済制裁を続けるには、制裁することで経済的に打撃を受ける国々を仲間に引きとどめるため、打撃に匹敵する利益を与えなければならないが、アメリカにはそこまでやる気持ちはないだろう。アメリカが他国をそれだけの規模で経済援助すれば、国内経済にはねかえってくるので、アメリカ政府がそう考えても、国民は拒否すると思われる。

 多くの国民は、今回のことを、中国が尖閣を奪ってくることに引き寄せて考えているだろうと思う。私自身は、ロシアにとってのクリミアと、中国にとっての尖閣は全く異なるものだと考えている。中国は尖閣を奪うより、西太平洋全域でアメリカに匹敵する軍事能力の構築をめざしており、尖閣を奪取してそこに釘付けになるような戦略はとらないはずである。しかし、いまのような緊張状態のなかでは、不測の事態は起こりうるので、国民が心配する気持ちは理解する。

 ただ、そういうことを想定しても、今回のクリミアが私たちに教えていることは、同じようなことが日本を舞台にして起きた時、アメリカが集団的自衛権を発動して、援助してくれるわけではないということだ。クリミアのように戦略上の要衝で、多くの人が居住するところでも軍事力を発動しないのだから、尖閣のために軍事行動するわけがない(一部の人は、そうならないよう、さらにアメリカの関心を惹くべきだと主張するだろうが)。

 だから、尖閣のことを考えても、いま日本人が考えるべきは、集団的自衛権の憲法解釈を変えることではない。そうではなくて、個別的自衛権で何をやるのか、それを豊富化させることだと感じる。

 数日前の朝日新聞に、元陸上幕僚長の冨澤さんが登場していた。そこで、「米軍から集団的自衛権行使を求められたこと」も、「日米共同訓練で話題になったことも」なかったとし、安倍さんの真意が軍事的な必要性から出たものでないことを指摘している。そして、安倍さんや安保法制懇の議論(4類型などの)について、「国民にとっても自衛官にとっても理解しづらい」と言っておられることは、本当にそうだと感じる。

 だからやっぱり、「自衛隊を活かす会」の出番だ。先週の朝日新聞文化欄に載った記事を見て、NHKが取材要請をしてきた。国民にも自衛官にも理解できる提言が求められているものね。

 4月以降年内の政治の世界は、安倍さんの路線VS自衛隊を活かす会の路線、という対決軸になっていくのだと思う(希望する?)。どうでしょ。