2014年2月25日

 今回でこの本の書評は終わり。まず、論争のやり方という点から。

 石破さんについては、多くの方が軍事専門家(オタク?)だと思っているだろうし、本人も自負があるだろう。そういう方の書いたものを論評する場合、軍事偏重を批判しても意味がない。読む人は、実際に軍事偏重しているかどうかは別にして、軍事の話を聞きたくて石破さんの本を買うわけだから、軍事ばかりだと批判しても、「当然のことでしょ」と考えるだけである。

 そうではなくて、そういう場合、石破さんの「強み」である軍事の部分で勝たなければ、勝ったことにならないわけだ。これは論争の基本である。グラムシだったか、理論闘争では、相手のいちばん強い部分で勝たなければならないと言っている。だから、昨日の記事では、アメリカの艦船だけが単独で攻撃されるという石破さんの想定のおかしさ、非現実味を書いたのである。

 ただ、アメリカの艦船だけが単独で攻撃される想定は非現実的だとはいったが、過去に、そういう事例が存在しないわけではない。石破さんが知っているかどうかは分からないが、私はふたつの事例を知っている。

 ひとつは、米西戦争でキューバを占領したときである。アメリカは、自国の艦船(メイン号)がスペインに攻撃されたことを口実に、“Remember the Maine”を合い言葉にして、スペインの植民地であったキューバを我が物にした。しかしいまでは、これはスペインの攻撃ではなく、燃料の偶然の爆発によるものだったというのが定説になっている。

 もうひとつは、トンキン湾事件である。米艦船が北ベトナムに攻撃されたとして、アメリカは北爆に乗りだすのである。しかしこれは、アメリカによるでっち上げだったことが、のちに国務省の秘密報告が暴露されて明らかになるのだ。

 石破さんは、アメリカの艦船だけが攻撃される事例を示したいなら、この程度の勉強はして、「あり得る」と言わねばならない。もしかして、勉強した結果がこれだったので、「ああ、米艦船が単独で攻撃される事例って、いかがわしいんだ。とても持ち出せない」と思ったのかもしれないけどね。

 まあ、このような批判が説得力をもつのは、柳澤さんら防衛省OBから批判が出てきたからであって、これからも大事にしたい。でも石破さんが、おそらく最後の一線だと思っていることがあって、それが自衛官のことである。柳澤さんなど官僚からの批判はあるが、制服組である自衛官OBからは集団的自衛権批判の声が出てこないのを、とっても強調している。声が出た場合もあるけど、それは賛成する声だったとこの本でのべている。すがりたいんだろうね。

 でもね、石破さん、そこを近く突破しますので、楽しみに待っててください。6月です。