2014年5月16日

 いやあ、昨夜の安倍さんの会見(「改憲」と変換されてしまった)、見てましたか。すごく高揚してましたね。歴代総理ができなかったことをオレだけがやったんだ、そんな高揚感でしょうか。

 避難する日本人の命を助けられなくていいのか。そこに焦点をしぼったんですね。これ、読者の方はご存じでしょうけど、このブログ記事ですでに取り上げていますので、読んでなければご一読を。

 本日は、あまり言うことはないです。報告書の全文が発表されたので、週明けに印刷所に入れる原稿を全力で書き上げます。ほとんど予定通りでしたけど、新たに書き下ろししなければならないのもあるし、それに伴って、書いたもののうち削除すべきものを決めなければなりません。

 で、この本は、いわば批判です。安倍さんがやろうとしていることへの。自分で言うのもなんですが、報告書を読んで、安倍会見を見て、かみあったものが出せると思いました。

 しかし、もうひとつ大事なのは、安倍さんが進もうとしている方向への対案です。あのむちゃくちゃ無責任な路線でなく、日本人の命と、そしてアメリカ人の命のことだって、真剣に考え抜いた防衛戦略です。

 それを探究するのが、「自衛隊を活かす会」(正式名称は「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」)です。6月7日に発足し、まず自衛隊の国際貢献にあり方をめぐってシンポジウムを行います。

 そのホームページを公開しました。シンポジウムの結果などを収録し、どんどん充実させていく予定です。みなさん、賛同者の欄もありますので、是非、コメントなどをお寄せください。

 ホームページはここにあります。岡嶋さん、ありがとうございました。
 

2014年5月15日

 書いている本の紹介は今回で終わり。面白そうだと思ったら、買って読んでくださいね。書店に並ぶのは6月上旬になりますが、会社のホームページでは、5月29日から購入できると思います。

論点31 領海内で潜行している潜水艦が退去命令に応じないときにどうすべきか

 これも、いわゆるグレーゾーン事態として議論されていますが、日本の領海で日本の主権が侵されている事態であるので、個別的自衛権の問題です。いかなる意味でも集団的自衛権とは関係がありません。

 どの国のものか分からない潜水艦が突如として領海に浮上してきたり、領海内の深い海中にいることが判明すれば、誰もが不安になるのは当然です。退去命令に応じない潜水艦があるとしたら、許されることではありません。

 しかし、潜水艦というものは、少し考えてみれば分かることですが、「見つからない」ところに最大の役割、特質があります。隠密性を生かして行動することにより、敵の探知をかいくぐり、偵察行動を行ったり、機雷を敷設したり、攻撃したりするのです。見つかってしまったら、そういう特性を発揮することはできません。その時点で敗北なのです。
 
 「安保法制懇」が想定している退去命令に応じない事態というのは、まさに潜水艦が見つかっている事態です。もはや役に立たない潜水艦になりはてているのです。潜水艦が頻繁に探知されるとしたら、それだけの能力をもつ自衛隊の優秀さを誇ればいいでしょう。

 発見した潜水艦をどうするべきか。これには過去に事例があります。

 二〇〇四年一一月一〇日、中国の原子力潜水艦が石垣島東方の領海を通過したことがあります。日本政府は海上警備行動を発令し、海上自衛隊の護衛艦は、アクティブ・ソナー(大音波を出すソナー)を出しながら、上海沖まで二日間以上追尾しました。中国政府からは「技術的原因で謝って石垣水道に入った」という遺憾の意が表明されました。

 二〇一三年五月、中国海軍所属とみられる潜水艦が、沖縄県・南大東島の接続水域内で潜航していることを、海上自衛隊が三回にわたって探知しました。三回目の際、 海上自衛隊の哨戒機は、潜水艦を牽制するため、音響探知機(ソノブイ。ソナーとブイの合成造語)を海に投下して音波を潜水艦にあてたとされます。

 潜水艦を探知するには、その固有のスクリュー音を聴取し、艦の種類を特定します。そのため、スクリュー音をとらえる音響探知機(ソナー)を投下するわけです。普通、こちらから音波を出すことはしません。探知されていることが分かると、探知されないよう相手の工夫する余地を与えるし、日本側の能力水準を知られてしまうからです。

 これらの際、あえて音波を出したのは、「オマエがいることは分かっているよ」と警告し、牽制したわけです。そして実際、それで問題は解決しました。もし音波を出しても退去しないことがあるとすれば、相手側に深刻な故障、事故が発生している可能性もあり、慎重な対応が求められます。

(まとめ)潜水艦を探知した場合、音波を出して相手側にそれを知らせ、警告することができ、実際にそういうやり方で問題を解決した事例もあります。

2014年5月14日

 いよいよ明日ですね。「安保法制懇」の報告です。噂によると5万字を超えるのだとか。これを資料として掲載するのですが、どんなに小さくしても資料だけで50ページですよね。値段がはねあがりそうです。で、公明党との間では、まずグレーゾーン事態について協議するとか。ということで、いま書いている本の、その関連部分をご紹介。

論点30 武装集団が離島を占拠し、不法に活動するなどのグレーゾーン事態をどう考えるか

 グレーゾーンというと、個別的自衛権と集団的自衛権の間にあるかのように響きます。しかし、日本の島を武装集団が占拠するなどの事態は、他国に対する武力攻撃が発生したわけではなく、あくまで日本の主権を日本が守るというケースであり、いかなる意味でも集団的自衛権と結びつけるべきものではないことを、まず指摘しておかなければなりません。

 尖閣をめぐる現状からして、いろいろな事態が想定されます。武装集団が島を占拠するというのも可能性がゼロではないでしょう。でも心配することはありません。

 第一に、海上保安庁では対処できないという事態は、およそ非現実的です。もちろん、海上保安庁が実力を行使しないのをいいことに、居座り続けるくらいのことはあるでしょう。しかし、尖閣諸島では島内で食料や水を確保することはできず、外からの補給なしに暮らしは成り立ちません。海上保安庁が島を取り囲んでいれば、占拠する人数が多ければ多いほど、長期間にわたって居座り続けることは不可能なのです。日本政府が頭を使うべきは、退去せざるを得なくなった外国人をどう扱うか、外交交渉の方になります。

 第二に、こういう場合に自衛隊を使うことは、愚策中の愚策だということです。目の前で主権が侵害されるのを見れば、「早くなんとかしろ。強い自衛隊を送れ」という感情が生まれるかもしれません。しかし、日本の側が自衛隊を送れば、相手の側にも軍隊を派遣する口実を与えることになります。その際、相手からは、「日本が先に自衛隊を送ったのだ、こちらはやむを得ない措置だ」という宣伝がされることになるでしょう。

 戦争に発展しかねない紛争問題がある場合、何よりも大事なのは、それを平和的に解決する努力です。尖閣問題ではどのような解決策があるかについては別の著作(『これならわかる日本の領土紛争』大月書店)で論じたので、ここではのべません。

 同時に、それがエスカレートする際に大切なのは、日本側が先に手を出さないということです。言葉は悪いですが、先に相手に出させることです。相手を侵略の側に、日本を自衛の側に、という構図をつくることです。

 現在、尖閣諸島をめぐって挑発をくり返す中国に対し、話し合いをしないという日本側の姿勢は重大問題ですが、現場での対処を海上保安庁レベルにとどめていることは大事です。そのことが、現状を力で変更しようとしているのは中国だという、かなり広い国際的な認識を生んでいます。日本が先に自衛隊を派遣してしまえば、武力を使おうとしているのは日本だということになり、国際社会の支持を得ることはできなくなるでしょう。

(まとめ)補給のきかない離島の占拠は、海上保安庁がしっかりとしれいれば、長期間は不可能です。日本が先に自衛隊を出せば、国際社会の支持が得られなくなります。

2014年5月13日

 この5月は、合計で4回、講演します。いちいちそれをお知らせすることはしないんですが、これだけは事前にご紹介しておきます。

日時:5月21日(水)午後6時開場
場所:京都社会福祉会館(二条城北側)
会費:500円
演題:集団的自衛権 その本質と闘い方を学ぶ
講師:松竹伸幸

 申し込みは必須ではありませんが、電話かFAXで以下に申し込みすれば、入場整理券を郵送するそうです。かもがわサロン ℡075-415-7902 Fax075-415-7900。

 なぜこれだけ紹介するかというと、まず、わが会社の講演会だということですよね。失敗できないというか、中身にも規模にも会社の責任が問われるわけなので。200人という大きな会場を予定しているということもありますし。

 もうひとつは、集団的自衛権をめぐる情勢ですよね。今週15日(木)、「安保法制懇」が報告を発表し、その日のうちに安倍さんが記者会見で「政府見解」を公表し、あとは一気呵成に進んでいくようです。

 そういう局面で、「安保法制懇」の報告書や政府見解をどう捉え、どう闘っていくのか。それを示す最初の場所になると思うので、私も気合いが入っているんですよ。だから是非、多くの方に参加していただきたいんです。

 電話やFAXが面倒だという方は、メールでもいいですし、フェイスブックならコメントでもいいです。というか、別に、突然来てもらってもいいんですけど、あまりに人が多そうだと、第二会場を準備したりしなければならないもので、事前にある程度の目途をつけておきたいということです。

 でこの講演会、講演が1時間で討議が1時間、ということになっています。討議するところに特徴があります。憲法が実質的に変わるという局面ですから、これまでの常識の線で闘うだけではだめでしょう。思想が入れ替わるくらいのはげしい議論が必要だと思います。は、21日にお会いしましょう。

2014年5月12日

 今週は、集団的自衛権の週になりそうですね。「安保法制懇」が報告を出し(13日から1~2日ずれるかも)、安倍首相が政府見解も発表するということですから。私の本の執筆も山場です。この間、公明党を説得するため、集団的自衛権の必要な事例としていろいろ出されました。焦っているからでしょうか、出れば出るほど、恥ずかしいなと思わせるものになっています。ということで、今回、先週末に出てきた事例について、予定の本に書いたことをご紹介。

論点29 朝鮮半島有事に韓国から避難する日本人を乗せた米艦船を守るために必要か

 「限定容認」論もここまで来たかという、推進論者の劣化を象徴する事例だと言えます。突然どこかの国がアメリカの艦船を攻撃するという、あまりにもリアルでない想定では国民を納得させられないとして、突然、誰かが考えついたようです。日本人の命を守るためなら反対できないだろうというわけです。

 しかし、海外の邦人救出の仕事は、日本自身がすべきだというのが、これまでの努力の方向だったはずです。緊急時にはアメリカも自国民救出が優先であって、アメリカにまかせられないからとして、日本自身による体制をつくってきたのです。

 自衛隊の航空機による輸送は、自衛隊法の改正により、一九九四年から可能になりました。政府専用の自衛隊機(ボーイング747)が基本で、それが困難な場合はCー130等の輸送機を使うことになっています。

 一九九九年、自衛隊の艦船による輸送も可能となるよう、自衛隊法の改正が行われました。輸送艦や護衛艦等を使用することが想定されており、艦船と陸地の間に限定して、艦船に搭載したヘリコプターも使うことになっています。

 これは、いま議論になっているケースと同じです。韓国の沿岸まで護衛艦や輸送艦を派遣し、ヘリが地上を往復して邦人を艦船まで運び、日本にもどってくるのです。ある国に許可を得て滞在している外国人の命は、その国の政府が責任をもつという建前になっており、邦人救出のために自衛隊が派遣される場合、現地政府の同意が必要とされます。しかし、艦船を派遣する際は、港湾への着港の許可を得るだけであり、日本が武力を行使するわけではないので、朝鮮半島有事のとき、韓国政府が同意しないという事態は考えられません。

 自衛隊法にもとづく邦人輸送は、すでに二回実施されています。一度目が二〇〇四年四月、イラクにいた報道関係者一〇名をC-130輸送機でタリル空港からムバラク空港(クウェート)まで輸送しました。二度目は昨年一月で、アルジェリアで発生したテロ事件における被害者の輸送でした。生存者九名、死亡者九名を、アルジェの空港から羽田空港まで、政府専用機(ボーイング747)により輸送したものです。

 なお昨年、再び自衛隊法が改正され、陸上輸送も可能とされました。 艦船によるものと陸上輸送の実績はまだありません。

 万が一、朝鮮半島有事という事態が起これば、これらの法律はフルに活用されることになります。海上自衛隊と海上保安庁が保有する艦船の数は、在日米軍が日本周辺で運用している艦船よりも多いのであり、日本人が米艦船で救出されるより、アメリカから米国民を日本の艦船に乗船させてほしいという依頼があると考える方が、ずっとリアルでしょう。

(まとめ)有事の際の邦人救出は、アメリカに頼るべきでないとする立場から、自衛隊の艦船がやれるように法整備がされており、こんな想定は滑稽です。