2014年11月19日

 国連総会で人権問題を扱う第3委員会が、北朝鮮の重大な人権侵害を国際刑事裁判所(ICC)に付託することを安保理に求める決議を、18日に採択したという。賛成111、反対19、棄権55だとのことだ。総会を経て、安保理がこれを議題にするかどうかを決めることになるが、どうなるかは微妙な情勢だ。

 安保理がこれを犯罪として認め、国家指導者をICCに付託すると決めれば、ICCはそれに従うことになっている。ICCは4つの罪を裁くことになっているが、そのうち、「人道に対する罪」にあたるということになろう。

 北朝鮮における人権侵害というものが、あれこれの人権侵害の一種というものではなく、非情に大規模で組織的であって、「人道に対する罪」にあたることについては、おそらくあまり異論がないであろう。それが裁かれるべきであることも当然だ。

 しかし、じゃあたとえICCがそれを決めても、北朝鮮の国家指導者を裁判所に突き出すのは、北朝鮮自身である。北朝鮮がそんなことをやるはずもなく、いくら決議してもそ現実味のないことは、誰もが承知しているところである。

 国際的な批判を高めるのが目的なのかもしれない。それは大事なことではある。だけど、一時的には北朝鮮の反発を高める。北朝鮮は早速、自制していた核実験に影響があると表明し、威嚇している。

 まあ、そんな威嚇でびびっていてはダメである。しかし、この路線を進めることで、具体的に何か成果を得られると思っていたら、お花畑のようなものだ。

 このような決議に実質的な意味があるのは、それによって、北朝鮮の人びとが、自国の指導者がそれほどの国際的な批判にさらされていると自覚できるときだけである。旧ユーゴ国際戦犯法廷にミロシェビッチが起訴されたときも、時間はかかったけれど、人びとのなかでミロシェビッチを指導者から引きずり下ろすだけの世論が強まり、起訴されることになったわけだ。

 北朝鮮のような情報暗黒社会の場合、そういうことがすぐには期待できない。だけど、だからといって、黙って放置するというわけにもいかない。

 何十年かかかるにしても、北朝鮮が民主化されるときは必ず来る。その際、体制を打倒した人びとが、「国際社会が人権侵害を糾弾してくれたことが励みになった」と言えるようなことはしておかないといけないのだと思う。

 ただ、今回の動きによって、拉致問題が動くことは絶対にない。だから、そこはリアルに見て、日本政府が率先してやるべきなのは、この決議の推進はEUあたりにまかせて、その分の知恵と力を拉致問題に振り向けることだろうと思う。