2014年10月31日

 何回か書いてきたけど、3.11後、福島には特別に関わってきた。本を出すという分野でも、他の出版社より精力的にやってきたつもりだが、毎年、3.11の日には福島で何らかの取り組みをやり、その日は福島で過ごして、慰霊祭で黙祷もしてきた。ご存じのように、旅行社にお願いして、全国からツアーも募ってきた。

 ではこれからどうするのか。来年はどうするのか。ツアーの常連もいらっしゃるし、そろそろ公表しておかねばならない。

 このブログでも紹介したが、福島をめぐっていろいろな裁判がやられているわけだけど、そのなかに『「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟』というのがある。主に原発事故を起こした国と東電の責任を明らかにするために行われているもので、原告が4000人近い大所帯になっている。

 この裁判の原告団・弁護団の編著で、『あなたの福島原発訴訟』という本をつくった。福島に深く関わるなかで、原告団のなかから、「つくるなら、是非、かもがわ出版で」という声があがったということで、努力が報われた感じでうれしかった。

 この裁判、2カ月に一度の公判の日は、何百名という原告が集まってくる。裁判所の近くで集会をやって、裁判所までデモ行進するのだ。それを、裁判がつづく1年以上にわたってつづけることになる。

 だけど、ご存じのように、傍聴できる人は数十名。裁判をしている間、原告は別の場所でいろんな取り組みをすることになる。二カ月ほど前、その時間をどう過ごすかが大事だよねということが、弁護団と話していて話題になった。そして、著名な方に福島に来てもらって、講演してもらおうということになったのだ。

 そういう方の連絡先は出版社なら伝手があるだろうということで、この間、連絡をとってきた。現在、来年の7月まで公判があることが決まっているのだが、それまで以下の方に講演していただくことになった。テーマは予定だけど、ご紹介しておく。

 3月24日(火)浜 矩子「原発再稼働で日本経済は良くならない」
 5月19日(火)白井 聡「戦後思想における福島原発事故の位置」
 7月21日(火)藻谷浩介「福島から広げる里山資本主義」

 すごいでしょ。9月以降の公判が決まったら、増やしていきます。

 みなさん、原発問題で何かやりたいと思っていたので光栄ですと、快く引き受けてくださった。うれしかったなあ。これが本になると、もっとうれしい。

 これにあわせてツアーもやります。これまでとは違うアプローチですが、よろしく。

2014年10月30日

 <先日、神戸で講演した際、聞きに来られた方のなかに神戸高校17回生・9条の会(そんなのがあるんですね)の方がいました。私が同校の25回生だと知って、会報への寄稿を依頼されましたので、以下の雑文をお送りしました>

 私は、京都に本社のある「かもがわ出版」の編集長をしています。憲法9条を守るということは、弊社が出版する本の一つの柱です。ただ、同じ護憲であっても、出版の方向性は護憲他社とはかなり異なります。9月29日の神戸新聞にも掲載されたのですが(添付)、別の角度から紹介させていただきます。

 9条の会ができた頃、多くの方は、自衛隊のない日本をめざすことが大事だと考えたことでしょう。もちろん私も、究極的にはそれが理想です。しかし、それを差し迫った現実的な課題にしてしまうと、国民多数の支持は得られないと私は考えました。だって、どの世論調査を見ても、自衛隊の縮小を望む人は、数パーセントしかいないのです。廃止派はもっと少数です。国民多数は自衛隊を認めていて、とくに侵略の防止、災害救援の役割を期待しているという現実から出発すべきだと思うのです。

 そこで7年前、防衛省の元高官の方々にお願いし、『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る』という本を出しました。帯の文章を、防衛庁長官をつとめた加藤紘一さん(元自民党幹事長)にダメ元でお願いしたら、快く引き受けてくれました。自衛隊の準機関紙と言われる「朝雲」の1面に広告を載せました。幸い、大きな反響があって増刷を重ね、自衛官からの注文も少なくありませんでした。

 この本は、自衛隊は専守防衛に徹すべきであって、海外派兵を許してはならないという立場のものでした。一方、国民のなかには、アメリカと一緒に軍事介入するのはゴメンだが、国連平和維持活動のような国際貢献に自衛隊が参加するのは当然だとする世論も強くあります。

 そこで6年前、『自衛隊の国際貢献は憲法9条で』という本を出しました。著者の伊勢﨑賢治さんは、シエラレオネに派遣されたPKOの武装解除部長でした。内戦終了後の不安定なシエラレオネに行き、丸腰で武装勢力に対して「武器を捨てよう、仕事は保証するから」と説得し、短期間で国内に存在していた全ての自動小銃(カラシニコフ)を回収してこられた方です。その後、アフガニスタンでも同様の仕事を行い、憲法9条をもつ日本人だからそれができたのだと確信し、丸腰・非武装の自衛隊を派遣して戦争を終わらせることを提唱しています。

 4年前、『抑止力を問う』という本を出しました。著者は柳澤協二さん。防衛省に40年務め、小泉首相がイラクに自衛隊を派遣したあと、その統括をしろということで内閣官房副長官補(事務次官待遇)に抜擢された人です。安倍(第1次)、福田、麻生さんと4人の自民党首相に仕え、定年退職しましたが、民主党鳩山政権が普天間基地問題で迷走したことに怒り、朝日新聞に「沖縄に海兵隊はいらない」という趣旨の論考を発表したのです。それを見て、是非、本を出してほしいと持ちかけました。

 その柳澤さん、伊勢﨑さんらに呼びかけ、今年6月につくったのが、神戸新聞で紹介されている「自衛隊を活かす会」(正式には「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」)です。

 安倍首相の路線への対抗軸として、よく「軍事か外交か」と言われます。でもそれでは、軍事も大切、自衛隊も必要という人を結集できません。しかも、安倍さんの軍事は、これまでの自民党の専守防衛から大きく踏み出るものであって、保守の方はまともな防衛政策を望んでいます。憲法9条のもとでの自衛隊の可能性を探るのが、この「会」の目的です。自衛隊を認める人びとに9条のままでもいいのだと分かってもらうのが趣旨です。ご注目いただければ幸いです。□

2014年10月29日

 って、私が聞く企画です。なんと、東京都江東区夢の島で開かれる「赤旗まつり」の会場(「東京の広場」の千代田区テント前)で、午後3時半からです。無料ですけど、「赤旗まつり」の会場に入るのに2500円かかるので(1日から3日まで通用)、普通の人は来ないでしょうね。会場に来る予定のある人は、是非、足を運んでください。

 さて、この企画、主催は「たびせん・つなぐ」という旅行社です。かもがわ出版が後援。

 なぜ「福島」か。弊社は3.11以来3年間、3.11の日は福島で何らかの企画をやってきました。池田さんは、そのうちの2回に参加して、福島の人びとを励ましてくれました。それを応援するツアーをやってくれたのが、「たびせん・つなぐ」なのですね。11月1日は、いまの福島をどうとらえるべきか、何をすべきかを池田さんにお伺いしたいと思います。

 で、今年の3.11、福島に向かうバスのなかで池田さんから聞きました。池田さんが新訳を担当した『夜と霧』が、3.11以降、爆発的に売れているらしいんです。なぜでしょうね。ユダヤ人大虐殺の収容所を体験者がリアルに描いた『夜と霧』。だけど、どこかで書きましたが、池田さんが訳した新版には、収容者を殴らない看守もいて、虐待された収容者が、解放された時点で看守を助けるという希望も描かれているんですね。それが、あの大惨事を経験した日本の国民の心情にマッチしているのでしょうか。勝手な観測ですけれど。

 それやこれやがあって、来年5月末(21日から29日)、「たびせん」が池田さんと訪ねるアウシュビッツとドイツの旅を企画しました。戦後70年ですしね。

 でも、そういう企画なら、反戦の児童文学者として名高いケストナー関連を加えないとだめでしょ。池田さん、『飛ぶ教室』なども訳しているし。ベルリンには、ケストナーにまつわるいろんな場所もあるそうです。そして、それなら、池田さんは『グリム童話』関係の訳も多いし、メルヘン街道も訪ねなければならないでしょ。

 ということで、この旅の企画、あっという間に煮詰まりました。旅行中きっと、池田さんがどういう思いで翻訳をしたのか、それぞれの著者に対する思いはどんなものか、貴重なお話が聞けると思います。それを本にできれば、出版社としてはさらにうれしいことです。

 その「頭出し」をやろうというのが、11月1日の企画なんです。というか、本当は旅行社の宣伝なんですけどね。

 で、たくさん集まってもらうため、「赤旗」に広告を出そうとしたら、「「赤旗まつり」の正式プログラムでない企画は載せられない」という非情なお達しでした。お金を弊社が出す広告なのにね。それに、池田さんは14時から15時まで、中央舞台で山下書記局長と対談するというから、きっと大丈夫だと思い込んでいたんですけどね。

 15時30分に池田さんが「東京の広場」に来るというだけなら広告に載せていいというんです。でも、それでは何をするか分からないので、このブログでも書かせていただきました。ご参加いただき、関心を持たれた方は、是非、旅の方にもご参加ください。私はもちろん旅にも参加します。

2014年10月28日

 「慰安婦問題は、日韓関係に刺さった大きなトゲである。日本の植民地支配に起因していることは間違いないのだから、真摯な反省のもとに対応することが重要だ」

 これ、最近発売された本(奥付は9月30日)からの引用です。タイトルは、『徹底検証 朝日「慰安婦」報道』(中公新書クラレ)。その最後の段落にある文章で、著者は「読売新聞編集局」。

 慰安婦問題が存在することも、それが植民地支配に起因していることも、「真摯な反省のもとに対応」すべきことも、読売は主張しているんです。いま、この瞬間にも主張しているんです。まあ、通常は、こうした文章の後に激烈な朝日批判が続くので、そっちに目を奪われるのかもしれませんけどね。

 でも、そのことを無視して、読売などの右派メディアをただただ糾弾するようなやり方は、私は正しくないと思います。間違いをしでかした朝日を擁護して、その間違いを指摘してきた右派メディアを叩くということですし、しかも、実際に読売が主張していることをねじ曲げるわけですから、世論をどんどん相手側に追いやっていくことになると懸念します。

 いや、たとえ読売などがそう言っていても、それは建前であって本音は違うのだと考えることも可能でしょう。そして、そういう右派メディアの本質を暴き出すのが、慰安婦に寄り添い、その願いを叶えようとするものの使命だと。

 だけど、それでどうするんですか。慰安婦のことが問題になって20年以上です。そういう立場は、河野談話から村山談話に至る最初の時期が最盛期で、その後、どんどん国民の支持を失っていきました。逆に、安倍さんのような人が支持を得て、現在のような政治情勢になってきたわけです。

 それは、なぜなんでしょうか。左派の主張は正しかったのに、宣伝が足りなくてそうなったんでしょうか。その主張をもっと大規模にやれるようになれば、いつか安倍さんが考えを変えてくれて、慰安婦に対して国家補償をする側に回ると思っているんでしょうか。あるいは、自分たちで政権をとれる日がくると思っているんでしょうか。それも、慰安婦の方々が生きている間に。

 私はそうは思いません。読売や産経は、左派が河野談話を口を極めて批判していたときに、不満はあるが河野談話の線で行こうと主張してきたメディアです。いまだって、朝日をバッシングしているけれど、冒頭で述べたような考えも表明しているのです。

 それだったら、河野談話を糾弾した自分の過去を反省し、河野談話で行こうとした読売や産経を糾弾した過去についても反省し、あの時は批判して申し訳なかったよね、頼むから再びその河野談話の線まで戻ってくれとお願いするべきでしょう。反省なしに批判しても、誰も本気にしてくれないと思いますよ。だって、いつのまにか河野談話の批判者から擁護者になったということでは、いつまた河野談話の批判者に戻るかも分からないんですから。

 その上で、「真摯な対応」ってどんなものだろうか、植民地支配に起因しているのだから、どんな対応が考えられるだろうかって、持ちかけていくべきではないでしょうか。私はそう思います。そうじゃないと、国民多数の世論を背景に安倍政権に何かをさせるって、無理でしょ。(続)

2014年10月27日

 予告していたように、昨日、はじめて慰安婦問題でお話しした。といっても、半分は自衛隊問題だったので、そう長い時間ではなかったけれども。ただ、質問は慰安婦問題に集中したので、かなりまとまってお話しできたことも事実だ。

 はじめてだし、レジメにできるほど頭のなかでまとまってなくて、思っていることを断片的にお話しする方式だった。1000円も会費を払う人には申し訳なかったかな。

 まあ、だけど、熱心に聞いていただいた。ご質問やご意見も活発だった。この問題をなんとか終結に導くことに、多くの方が関心を持っておられるのだと思う。

 また、私なりに、これを本としてまとめる方向は見えてきたつもり。昨日のお話とご質問、ご意見はかみ合っていたと思うから。

 この問題では、非常に大きく意見が対立しているように見えて、実際に対立しているわけだが、私から見ると、わざわざ対立を過大に見せかけているという要素があると思う。お互いにである。

 たとえば、慰安婦問題の市民運動に熱心に携わって来られた方からすると、いまの読売とか産経などは、慰安婦が存在していたこと自体を否定しているかのよう見えるらしい。慰安婦「問題」は存在しないと主張しているのを、慰安婦は存在しないと言っているかのように捉えたりする傾向があるわけだ。まあ、この激しい対立のなかで、ネット右翼などのなかには言いたい放題の人もいるから、そう受け取るの人がいるのも仕方ない面はあるのだけれどね。

 だけど、政治的立場は違っても、慰安婦が存在していたことを否定する人はいない。また、慰安婦制度というものが、日本の国家的な要請でつくられ、国家が管理していたことを否定する人もいないだろう。

 よく引き合いに出されることだが、この問題が国会で議論された当初、厚生省の役人が「民間がやったこと」と答弁したことが、韓国や日本の市民運動で大きな問題となった。だけど、そのことは、当時から右翼メディアも問題にしていて、たとえば河野談話が出た翌日の産経新聞主張は、「慰安婦問題が政治問題化して以来の政府の対応は怠慢にして不誠実きわまりないものだった。最初は「軍が関与したことはない」と言い逃れ」とのべ、その答弁が問題を大きくしたことを批判したりしていた。軍が関与していたことは、産経にとっても当然の認識であって、誰もそれを否定する人はいないのだ。

 だから、よく、慰安所の設置や管理、慰安婦の移送に政府や軍が関与していることを示す事例を発掘して、「政府の言い分が崩れた」という言い方をする人がいるが、それは完全にずれていると感じる。そんな実例をいくら持ってきても、政府も右翼メディアも痛くもかゆくもない。(続)