2016年2月25日

(会社のメルマガに投稿しました。以下、全文)

 もうすぐ5年目を迎えますね。みなさにとって、この5年は、長い時間だったでしょうか、短かったでしょうか。

 弊社の出版物に関心がある方ならご存じのように、この5年間、日本を変えるという意気込みを持って、3.11関連の本をたくさんつくってきました。5年目を迎える今年も、そこに変化はありません。

 3.11があって、「これで日本が変わる」と思った人も少なくないでしょう。反原発の市民運動があれだけ盛り上がり、すべての原発が稼働を中止し、市民運動が掲げた目標が実現するかもしれないという、踊るような気持ちになった人もいたことでしょう。

 ところが、目の前の現実の政治は、それと逆行しているように見えました。自民党政権が復活し、しかも安倍晋三氏が首相となり、原発を重要なエネルギーと位置づけ、世論と逆行する政治を推し進めました。にもかかわらず、国政選挙では自民党が連戦連勝し、そして、秘密保護法の成立、集団的自衛権の閣議決定、戦争法成立と、やりたい放題が続きます。

 出版業界そのものは、この間、大きく変化しました。最初の1、2年は、原発問題をはじめ雨後の筍のように本が出版され、どの本屋に行っても関連本が山積みでした。しかし、3年、4年と経つにつれ、本屋の震災・原発関連コーナーは廃れていき、現在は、3.11の前後であっても、大型書店の一部で見かけるだけになっています。

 けれども、この5年間、意味のないことはなかったのだと感じます。よく言われているように、話題になったシールズも、脱原発のために官邸前に集まった人々に刺激を受け、活動をはじめたわけです。安倍首相が強権的に振る舞ってきたことも、相手の巨大さを感じる分だけ、こちらも協力しあうことによって対抗しなければならないという気持ちにさせてくれました。

 5年目の3.11を前にして、5年間の総決算とも言える本を出します。

 『福島が日本を超える日』(240ページ、1500円+税)。

cover

 著者は、白井聡さん、浜矩子さん、藻谷浩介さん、大友良英さん、内田樹さん。

 白井さんがヒット作『永続敗戦論』を書いてデビューしたのも、沖縄問題と合わせ、3.11の衝撃があったからですよね。3.11は、日本の思想界にも新しい論客を誕生させることになったわけです。大友さんが「あまちゃん」の音楽を生み出したのも、福島で高校まで過ごしたものとして、ある種の葛藤があったからでしょう。ムダな時間は過ぎなかったのです。

 この本は、国と東電の責任を問うために闘われている福島原発訴訟=「生業訴訟」のなかで誕生しました。裁判の度ごとに何百名もの原告が駆けつけるのですが、傍聴できるのは数十名。残りの原告が有意義に時間を過ごせるよう、弊社が後援する形で講演会を開催してきました。その記録がこの本です。

 私は講師の方々に裁判の意義や進行状況を説明するため、もちろん全回参加しましたが、普通の講演会とかなり違った印象を持ちました。だって、徒歩で数分のところで裁判がおこなわれているのです。そして、その裁判の原告に対して語りかけているのです。講師の方にとっても希有な体験だったからでしょうが、すごい気迫が伝わってきました。

 本の内容は、タイトルそのものです。日本の未来は福島の先にある、というのが核心です。

 福島の人々は、この5年間、不安を抱えながらも、ふつうに暮らしたいとも願い、同時に国と東電の責任を忘れないという強い気持ちを持ってきました。その苦悩、葛藤、模索、闘いから福島の人々が生みだしたものは、混迷を深める日本を乗り越えるだけの水準に達しており、日本の行く末を照らし出すものになっていると思うのです。

 講師の方々は、いろいろな角度から、『福島が日本を超える日』が来ることを語ってくれました。是非、みなさんにも、原告の方々が味わった感動を再体験していただきたいと思います。そのことによって、この日本を変える闘いに、さらに力が入るのではないでしょうか。