2017年1月20日

 「よりまし」政権って、これまでは、ほんとうに「よりまし」程度だった。実現したことがないから、あまり知られていないけれど。

 例えば田中内閣の末期、金脈問題で政府が危機的な状態におちいった際、「選挙管理内閣」というものが提唱された(74年10月)。これは、自民党内での政権たらいまわしでなく、腐敗政治に反対する全議会勢力によって選挙管理内閣をつくることを提唱するものだった。選挙を管理するという目的だけで政権をつくろうとするものであって、何か政策的に大事なことを実施しようとするものではなかった。ホントに田中内閣「よりまし」という程度のものだったのだ。

 あるいは、消費税が導入された直後に行われた89年参議院選挙で、消費税廃止、企業献金禁止、主食であるコメの自由化阻止の三つの緊急課題での暫定連合政府の樹立が提唱された。これは、政策面での一致をめざすという点では選挙管理内閣とは少し異なるものだったが、その一致はほんとうに限定的なものであって、日米安保や自衛隊をどうするというようなことは一致点にしないものだった。だから、もし消費税を廃止できるなら意味はあったわけだが、日々問われる安全保障問題では何もできないのであって、それはさすがに問題なので、消費税廃止のあとは再び解散して次の政権を問うというやり方しかなかったわけだ。これも「よりまし」政権に過ぎなかった。

 一昨年、新安保法制成立直後に提案された「国民連合政府」も、「よりまし」という範囲のものだったと思う。これも一致点は新安保法制の廃止だけであって(集団的自衛権の閣議決定の撤回などもあったが)、廃止のあとは、何も政策的な一致点がない政権なので、解散するしかなかったであろう。

 民主連合政府は、日米安保廃棄の課題にどの政党も賛成しないという点で現実味の薄いものだったが、「よりまし」政権にしても、他の政党からはずっと相手にされてこなかった。一方、国民連合政府の提唱は、民進党がふらふらしていたり、連合が反対していたりしているものの、少なくない人からはそれなりの現実味をもって受けとめられたと思う。昨年の参議院選挙で野党の選挙協力がそれなりの実を結んだことも、期待を高めることにつながった。

 ただ、これは私の個人的な感想だが、そうやって政権協力が現実味を帯びることで、それまでの「よりまし」政権の考え方は修正を余儀なくされたと感じる。要するに「よりまし」政権というのは、ほんとうに限定的な課題で一致するだけで、それを実現したら解散するというものだが、そんな政権構想で国民に責任を持てるのかということだ。安全保障でも何でもほとんど一致点がないのに(野合政権と言われても仕方がない)、限定的な課題だけの一致で政権をつくりたいので投票してほしい、そのあとまた解散して次の政権をどうするかは問いますからと言われて、国民がそれを信頼するのかということだ。

 実際、いま提唱されている野党連合政権って、そういうものではないように思える。それは次週に。(続)