2018年10月8日

四、核・ミサイル問題の分野で(2004.7記)

 最後に核・ミサイル問題です。この問題でも、日本共産党の立場というのは、実際に問題を解決するうえでも、北東アジアの平和と安全を確保していくうえでも、きわめて重要なものだと考えています。

<核抑止力論批判は協議の行方にとって重要な意義>

 日本共産党は、昨年5月の第6回中央委員会総会いらい、北朝鮮の核抑止力論を批判し、その考えを放棄するよう求めています。この方向で世論を高めていくことが、6 カ国協議の行方を考えるうえでも、きわめて大事だということを強調したいと思います。

 核抑止力論とは、核兵器をもつことが自国の平和にとって必要だとする考えです。日本共産党は、それにたいして、核兵器を放棄し、まわりの国々との友好関係を確立していくことこそ、北朝鮮の平和と安全を保障する道だということを強調しています。誰にとっても常識的な立場だと思います。これを、国際世論を高めることによって、北朝鮮に受け入れさせなければなりません。

 ところが、日本政府は、この常識的な立場にたち、北朝鮮を明快に批判してはいないのです。外務省の北朝鮮担当の方に話を聞くと、北朝鮮による核開発の動きに抗議する際、日朝平壌宣言に違反するものだとは指摘するが、どういう方法で平和と安全をまもるかは北朝鮮の主権に属することだというのです。

 これは、批判しないというより、できないということです。なぜなら、日本政府も、アメリカの核抑止力によって日本の平和をまもってもらうという立場を、戦後ずっととってきたからです。日本の平和は核抑止力でまもるが、北朝鮮の平和は核抑止力でまもってはだめだなどとは、説得力をもって主張できないのです。だから、北朝鮮に道理を説くためには、核抑止力を批判する諸国民の世論の高揚が欠かせないのです。

 同時に、いまお話したことからも明白なように、核抑止力論批判というのが、日本やアメリカの立場への批判でもあるということにも、大きな意味があります。

 6カ国協議の詳細はあきらかではありませんが、日本やアメリカは、自分たちの核抑止力信仰を残したままで、北朝鮮にあれこれ要求しています。もちろん、現在、5つの国にだけ核保有を認め、他国には厳格な核放棄を求める核不拡散条約(NPT) が存在しており、加盟国である北朝鮮はこれをまもらなければなりません。しかも、北朝鮮は、平和目的の核開発を容認するNPT条約を利用して、秘密裏に核兵器の開発をおこなってきたわけで、交渉のなかで平和目的の部分をどうするかについても、すでに議題になっています。交渉における合意事項が、NPT条約を超えるような場合も生まれる可能性もあるでしょう。

 このなかで、どの国のものであれ、この地域で核抑止力は不要だという考えがひろがり、6カ国協議に影響を与えることは、協議が生みだす当面の合意をより前進的なものにしていくうえで、重要な役割を果たすだろうと思います。さらに、核兵器で北東アジアの諸問題に対処しようという考え方への批判の世論がひろがることは、確立した合意を安定的なものにし、次の段階にすすんでいくうえでも、決定的なものにな るでしょう。

<非核化、非ミサイル化をめぐる議論に直結>

 大事なことは、この対話が進展していけば、朝鮮半島の非核化、非核条約化という道にすすむ可能性があることです。

 過去にも、韓国と北朝鮮は、拘束力のない宣言などの形では、朝鮮半島の非核化を約束したことがあります。しかし、北朝鮮による核開発の疑惑がもちあがり、なかなか進展しませんでした。6カ国協議では、参加国のあいだに意見の違いはあるようですが、北朝鮮による核兵器開発の完全な放棄を、何らかの拘束力ある形で約束させるということは、おおかたの一致がみられています。

 そうなれば、韓国は核兵器をもっていませんし、アメリカも90年代初頭、韓国から核兵器を撤去したと言明したことがありますから、拘束力のある朝鮮半島非核化へと動き出す可能性があるのです。ある地域が非核地帯として法的に保証されるためには、核保有国がその地域では核兵器を使用しないことなどを条約の議定書で約束することが不可欠ですが、米中ロという核保有国が6カ国協議にくわわっているわけですから、この点でも協議の前進は非核地帯条約と直結しています。

 また、非核地帯条約は、核弾頭を禁止するだけでなく、その運搬装置をあわせて禁止するのが一般的です。つまり、核弾頭を搭載可能なミサイルなども配備できなくなるということです。朝鮮半島をめぐる問題で核兵器の使用が法的に排除され、ミサイルもなくなることは、日本国民にとっても大きな意味をもつものです。

 大量破壊兵器を規制する地球規模の条約はありますが、運搬装置であるミサイルについては、そのようなものはありません。ミサイル規制を条約化するとなれば、他の運搬装置である軍用機などはどうするという議論になり、まとめるのが困難なのです。だから、1998年、北朝鮮がテポドンを発射したとき、アメリカはペリー国防長官を北朝鮮に派遣して交渉し、いわゆるペリー報告というものをつくりました。これは、北朝鮮がミサイルの開発、実験、配備、輸出の禁止で合意するなら、アメリカは北朝鮮への経済制裁をゆるめ、外交関係を確立しようとするものでした。いわば、ギブ・アンド・テイクの考え方であり、一つの解決策として意味があります。朝鮮半島を非核地帯条約にするということは、そのような手段とは異なり、法的にミサイル規制をおこなうものです。

 もちろん、アメリカがどんな場合も韓国に核兵器をもちこまないと約束できるか、この地域で核兵器を使用しないと約束できるか、という問題はあります。しかし、アメリカが非核地帯条約づくりに反する動きにでるなら、誰が北東アジアの平和の障害をつくっているかについては、新しい議論が起こることになるでしょう。

<日米同盟のあり方にもつながる重要問題として>

 最後に強調したいことは、6カ国協議がこうして前進していくことは、日本自身の国のあり方、日米関係の将来にも重大な影響を及ぼすだろうということです。

 朝鮮半島が非核地帯となれば、北東アジアの非核保有国のなかで、非核地帯化が条約で担保されていないのは日本だけだということになります。そうなれば、なぜ他のすべての非核保有国が法的にも非核地帯になったのに、いちおうは非核三原則という建て前をもつ日本でそれが法制化されないのはなぜか、という問題にはね返ってこざるを得ません。

 日本も非核地帯になろうという世論、運動が前進すれば、日米安保条約の本質と衝突することになります。いざというときに日本に核兵器を持ち込めるようにしておくことが、アメリカのアジア戦略のカナメをなす問題だからです。そのために、日本とアメリカとのあいだでは核密約が結ばれ、非核三原則の法制化をしない状態がつづいているからです。アメリカが朝鮮半島非核化に賛成する場合でも、有事に日本に核兵器を持ち込むことができれば、軍事戦略上は困らないからだという見方もあります。

 安保条約が問われるのは、核問題という角度からだけではありません。この間、小泉首相は、アメリカがイラク戦争を開始したときも、自衛隊をイラクに派兵するときも、国際的な大義を堂々と主張できないものだから、結局、「日米同盟」を根拠にしました。北朝鮮のことを念頭において、いざというときに日本をまもってくれるのはアメリカなのだから、イラク問題ではアメリカを支援しておかなければならないというのが、小泉首相の論理でした。

 この論理は、国民のなかに一定の影響を与えたとは思います。しかし一方で、毎日新聞が年頭に発表する世論調査を見ると、2年連続で、安保条約をなくすという回答が維持するという回答を10数%上回るなど、イラク反戦の気持ちを貫こうとする人びとのなかでは、「日米同盟」への拒否感が強まっています。そのうえ、北朝鮮をめぐる問題が解決に向かえば、安保条約の存在が国民的な規模で問われることになるで しょう。

 10年前の核危機のとき、アメリカ側で交渉を担当した一人であるケネス・キノネスという人がいます。この方が、4年前、『北朝鮮 米国務省担当官の交渉秘録』という本を出しました。その日本語版序文に次のような一文があります。

 平壌に対する日本のアプローチを変えることが、日本の新外交政策の要石となるに違いない。朝鮮民主主義人民共和国への政策を再定義し新政策を追求することは、必然的に、日本の対韓、対米関係の双方を変えることになるだろう。それは避けられない。いずれは、日朝正常化は、米日同盟の段階的縮小すらもたらすかもしれない。究極的に北東アジアの恒久平和という利益を追求する以上、それを避けて通ることはできない」

 そうなのです。北朝鮮をめぐる諸問題が解決するということは、誰が見ても、日米安保条約の「縮小」、私たちにとっては「廃棄」ですが、その目標に接近することになっていくのです。そういう展望をもって、6カ国協議の成功のために、私たちも全力をあげなければならないと思います。

 以上お話してきたように、北朝鮮問題というのは、どれをとっても日本共産党にとって困るようなものではありません。それどころか、人道問題の解決をねがい、アジアの平和のために全力をあげ、どんな覇権主義ともたたかってきた日本共産党の役割、真価が輝く問題なのです。そのことに確信をもって、参議院選挙をたたかい抜こうではありませんか。(了)