2018年10月23日

 米中が貿易戦争に突入している。INF条約からのアメリカの撤退は、昨日も書いたように、日本周辺での中距離核を開発必要から出てきているもので、冷戦時の核軍拡競争の再来が心配されている。東シナ海をめぐる米中の軍事的軋轢という現実も不安を生んでいる。

 しかし、「米中新冷戦」はやってこない。現在、目の前で展開されているのは、冷戦とはまったく異なる事態であって、捉え方を間違えると手痛いしっぺ返しを被ることになると思う。

 冷戦というのは、一言で言うと、アメリカを先頭とする資本主義・自由主義の陣営と、ソ連を先頭とする社会主義の陣営が、その生存をかけて戦ったものであった。その対立から距離を置いてきた人びと、「非武装中立」とか「中立自衛」などを掲げてきたような人びとには、そういう実感が乏しいだろう。しかし、少なくない人びとにとっては、「あんな国になりたくない、あんな国に支配されたくない」という強い気持ちが存在した。

 そういう状況下で、アメリカもソ連も、自国の支配下の地域(いわゆる勢力圏)が崩されることを極端に恐れた。アメリカがベトナム戦争を遂行したのも、ソ連がハンガリーやチェコに軍事介入したのも、一つ失えば勢力圏すべてが崩れているという恐怖感が両国を包み込んでいたからである。

 現在、そういう現実は、どこにも存在していない。中国が軍事面でも経済面でもどんどん強大化しているのは事実であり、それを背景にして、既存の国際秩序に挑戦しようとしていることは確かだ。領土問題でも海洋秩序問題でも、それは見えてきているので、中国に国際法を守れという圧力をかけることは大事だ(最近ではトランプが国際秩序を破って、中国が自由貿易を守れと言っているのだからから、それも相対的なものであろう)。

 だが、冷戦時と異なり、そもそも中国の勢力圏などというものはかけらもない。そういうものができるとして、それに入りたいと思う国も、(おそらく)一つもない。昔は各国に共産党が存在していて、それが政権の座につくようなことがあったら、世界がどんどんソ連の勢力圏に入るという不安が、アメリカの勢力圏にある国の支配層にはあったのだが、いまやそういう心配をしている人はどこにもいない。そもそも日本以外、共産党もなくなっているし、その日本の共産党も社会主義、共産主義が来るとしても数世紀先の話だし、それがどんな社会になるか青写真は描けないと言っているわけで、「こんな社会はイヤだ」と心配しようもないのである。

 それなのに「新冷戦だ」と騒ぐのは、結局、アメリカの軍事力に頼る時代を続けようという文脈でのことでしかない。冷戦時代なら、尖閣一つ取られても自由主義の盟主としてのアメリカの権威は揺らいだから介入する可能性があったかもしれないが、いまや相手の勢力圏は存在しないのだから、アメリカにとっても自国の存在や兵士の命をかけて守るべきものも存在しないのだ。

 だから、アメリカに追随しても、万が一の時に守ってもらえる保証はまったくないし、ただただアメリカが引き替えに求める経済的な権益を差し出すだけのことになる。「米中新冷戦」論にはまってはいけない。