2016年12月19日

 昨夜、NHKが今回の北方領土交渉の顛末を特集していましたよね。安倍さんなんかも何回も出てきたわけで、NHKが政府のやり方を批判的に分析した特集ではなく、全体として交渉の意味を論じようとした番組だったと思います。だけど、自民党の二階幹事長までが「がっかり」という結果ですから、政府の意気込みと国民の受けとめに落差があって、なぜこんな特集をしたのか腑に落ちなかったというのが、大方の感想だったのではないでしょうか。

 数日前にも論じましたが、今回、日本政府がアプローチを根本的に変えたところに意味があったんです。だけど、何が変わったのか、その意義はどこにあるのかは論じられなかった。論じられないまま「新しいアプローチ」で何かが変わるという期待感が高まったところに、落差の根源があると思います。

 戦後の日本政府の基本方針は「四島返還」でした。非常に非現実的な方針でしたが、そこに意味があったわけです。それではロシア(当時はソ連)に相手にされないことが分かっていて、相手をひどい国だと糾弾することが目的だったから、解決しないことが大切だったのです。

 ソ連が崩壊して、ロシアを協調相手にすることで、それまでの方針に見直しが求められます。しかし、何十年も「これしかない」と言ってきた「四島返還」方針を根本的に転換するわけにもいかない。ロシアの実効支配が進んで、四島にはロシアの人びとが住み続けている現実もある。そこで、施政権はロシアが行使していいから、四島が日本のものだ、日本に帰属する島々だということだけを確認してくれればいいということになります。ロシアも少し歩み寄ってきて、北方領土問題とは四島の帰属問題だということを合意するに至ります。しかし、そういう問題だというだけであって、ロシアは別に、国後や択捉に対する日本の主権を認めようなんてことは、その後も一貫して言ったことがありません。基本的には解決の展望がないままだったのです。

 今回の政府の「新しいアプローチ」とは、「北方領土問題とは四島の帰属問題」ということを、一切言わなかったことにあるのです(そこはNHKもふれていました)。どちらの国に帰属するのかという問題は決着させずに、特別な制度のもとにおこうということです。おそらく世界のどこにもない場所をつくろうというもので、そこに新しさがあるのです。それは、領土と言えばどこか特定の一国に帰属するものだという固定観念を打ち破るものです。係争地があったとして、その問題を解決するために大事な考え方だと思います。

 しかし、これは非常識な考え方なんです。何世紀も世界で通用してきた考え方を根底からひっくり返すものです。実現可能性は薄いんです。そこを進もうと思えば、この考え方の意義を徹底的に強調し、日本とロシアと世界の世論の支持を得なければならないのです。

 ところが、その意義を強調しようと思えば、四島は日本だけのものだという従来型の方針を放棄したと言わなければならない。世論が反発することは必至です。その反発を打ち消すほど、今回の新しいアプローチの意義を打ち出さなければならないのに、それをやるほど腹が据わっていない。それがいまの政府の現状だということではないでしょうか。

 だから、NHKも、政府と同じ呪縛のなかにあったのだと思います。意義を強調することと、四島の帰属問題は問わないということは一体のものなんだけど、どちらも中途半端に終わったということです。

 安倍さんが本気でやろうとするなら、四島にこだわる世論を「守旧派」と位置づけて攻撃するくらいなことをしないとダメなんだと思うけど、果たしてできるんでしょうか。このままでは無理でしょうね。中途半端さを見透かされて、プーチンさんの「一本勝ち」に終わりそうです。「引き分け」どころか。