2018年5月9日

 いきなり体制保障の話になる。北朝鮮が求める体制保障とは何なのか。それを明らかにしないと話が始まらないだろう。

 9.11をきっかけに「先制攻撃」戦略を明確にしたブッシュ政権は、北朝鮮を「悪の枢軸」と位置づけ、その「枢軸」の一員であったイラクのフセイン政権を武力で打倒した。それに脅威を覚えた北朝鮮が核開発に邁進したとされる。

 その文脈で捉えると、体制保障とは、北朝鮮の体制を武力で打倒しないことへの保障と捉えるのが常識的だ。本日の朝のニュースでも、金正恩が中朝首脳会談において、非核化のためには安全保障上の懸念が解消される必要があると「条件」を出したとされるが、そのことである。

 そして、そういう懸念のことならば、これまで何度も解消されたのだ。それは94年の米朝枠組み合意にも、2005年の6か国協議の共同声明にもあらわれている。

 枠組み合意は次のようになっている。「米国は北朝鮮に対し、核兵器を脅威として用いないこと、ならびに使用しないことに関する公式な保障を提供する」

 いうまでもなくアメリカは核抑止を基本戦略としていて、いざという時には核兵器を使用するという脅しによって外交目的を達成しようとしている。そのアメリカが北朝鮮に対しては核抑止戦略をとらないことを公的に保障したのだから、アメリカにとってはそれなりに踏み込んだ合意だったと言える。

 6か国協議の共同声明は、これをさらに発展させた。「米国は、朝鮮半島で核兵器を保有せず、北朝鮮に対して核兵器または通常兵器による攻撃または侵略を行う意図を有しないことを宣言した」

 朝鮮半島の核兵器をおかないことは90年代初頭に確認されていたことで新しくはないが、それを北朝鮮も含む協議で確認したわけだ。さらに、枠組み合意と異なり、通常兵器で攻撃しないことも約束したのである。

 それなのに、なぜ、北朝鮮は合意を無視して核開発の道を邁進したのか。アメリカが合意を破ったのか。そうではないだろう。別にアメリカは核兵器であれ通常兵器であれ、北朝鮮を攻撃したわけではないし、攻撃する意図があると表明したわけではない。

 もちろん、「意図」があるかどうかは主観的な話であって、北朝鮮が「アメリカには意図あり」と断定すれば、合意に反したのはアメリカだと主張するぐらいのことは可能になる。実際、北朝鮮は米韓合同演習を意図のあらわれだと批判してきた。それに応えて、枠組み合意を結ぶ際、当時の米韓合同演習であるチームスピリットが中止されたこともあり、アメリカも柔軟に対応してきたと思う。

 しかし、北朝鮮が合意から離脱する際に理由としたのは、そういう問題ではなかった。求めた保障とは、北朝鮮を攻撃しない保障ではなく、現在の支配体制をアメリカなど国際社会が支えるための保障だったのである。6か国協議が破綻した経緯を見れば、そのことはすぐに分かる。(続)