2018年5月30日

 米朝首脳会談をめぐって、非核化と体制保障に「ジレンマ」があることをかなりの回数で書き殴ったが、ジレンマがあるのはそこだけではない。日本も大きなジレンマを抱えているように見える。

 ここ1年ほどの安倍外交を見ていると、中国との間では「友好」の要素を強めようとしているようだ。軍事面で見ても、海空の連絡メカニズムがようやく実施される。

 これは不思議なことではない。安倍さんは第1次内閣の時、最初の訪問国として中国を選び、小泉さんの靖国参拝で冷え切った日中関係を打開しようとした。海空の連絡メカニズムも第1次内閣の時にやろうとしたことだ。戦後70年談話を見ても、日韓慰安婦合意を見ても、安倍さんはイデオロギー色を感じさせない決断をすることがある。ドライというか。そこにも支持率が下がらない源泉の一つがある。

 一方、悲願の改憲のためには軍事的な緊張関係が不可欠で、それでちょっと前までは、中国包囲網みたいなことをやってきたわけだ。だけど、経済的な利益のために割り切って、対決路線の相手を北朝鮮に絞り込んできた。実際に北朝鮮のやってきたことがあまりにヒドかったので、北朝鮮がいれば改憲には十分ということだったのだろう。

 ところがこの間の米朝の動きである。相当焦ったことだろう。

 それでも12日の前に日米首脳会談を持ってくるのはさすが安倍さんというところだ。首脳会談が成果を見せれば、「事前の日米会談で働きかけたから」と、支持率を引き上げる材料にするつもりなのだと思う。

 しかし、この動きが進んでいくと、そうはいっても「じゃあ、何のための改憲だ」ということにならざるを得ない。もちろん、一路非核化に進むとは思えないし、この間書いてきたように、非核化の進展はやがては体制の崩壊による緊張をもたらだろうが、それでも進む方向としては肯定的なものであって、緊張も和らいでいく。

 「あの国がコワいから改憲だ」なんて、これまでも言ってきたわけではないけれど、北朝鮮に対する国民の不安が問わず語りにそれを肯定してきた部分がある。改憲をめざす安倍さんにとっては大きなジレンマを抱え込んだ状態である。

 さらなるジレンマは、拉致問題に正面から向き合わざるを得なくなることである。核・ミサイル問題での北朝鮮の暴走を理由にして、「いまは圧力の時」と被害者家族と世論を抑えてきたのが通用しなくなっている。核・ミサイル問題は緊張をはらみつつも前向きに推移していくのに、拉致問題だけが残されることになると、まさに安倍さんの外交の問題だということが満天下に明らかになっていく。

 ただ、これを安倍さん糾弾の材料にしたとしても、「じゃあ、お前だったらどうやって解決するのだ」とブーメランになることは必至。他人事にせず、拉致問題をどうするのか提起できる政治家が、いま求められているように思える。