2018年5月14日

 東京に出張中ですが、連載を続けます。あと3、4回かな。

 私がこの問題でジレンマという言葉を使うのは、非核化から平和条約へ、国交正常化へという過程が、北朝鮮が多少なりとも開放された国になることと結びついているからである。現在は隠されている北朝鮮の人権問題の実態が明るみになることにより、それでも金一族の支配体制を支えていくのかが問われることになるからである。

 94年の枠組み合意という限られた目的を達成するためにだって、IAEAの査察官はもちろん、アメリカからだって何十人もの要員が核開発の拠点であった寧辺に滞在した。その記録をしたためたケネス・キノネスの『北朝鮮Ⅱ 核の秘密都市寧辺を往く』では、文化も言語も政治も何もかも違う両国の人間が不信の壁を乗り越えていく過程が描かれている。

 ましてや国交正常化となれば、首都平壌にアメリカをはじめ世界各国の人間が出入りすることになる。そういう状態になれば、これまでは脱北者などを通じてしか人権問題の実態は伝わってこなかったのだが、いろいろな人に取材が可能になってくるし、強制収容所にアクセスしようという記者も出て来るだろう。

 そこで何が明らかになってくるのか。先日、ニューヨークタイムズのコラムニスト(元東京支局長)の記事が朝日新聞に翻訳されて掲載されていた。次のようなことも書かれていた。

 「トランプ氏にはぜひ人権問題も取り上げてほしい。ある調査委員会の報告によると、北朝鮮は強制収容所で「広範に」人道に対する罪を犯している。「10万以上という数字には国家の敵とされる人の罪なき家族も多く含まれるが、その数を上回る人が政治犯収容所に送られて死んでいる」。そう私に話すのはピレイ前国連人権高等弁務官だ。「頻繁な強制中絶や幼児殺害、キリスト教徒の迫害、拷問、即決処刑には十分な裏付けがある。トランプ大統領は、赤十字や国際社会が北朝鮮の刑務所や収容所にアクセスできるよう要求できる」という。」
 (コラムニストの眼)北朝鮮への疑念と期待 戦争回避の道筋は描ける ニコラス・クリストフ(NYタイムズ、4月29日付 抄訳)

 そういうことがもっとリアルに報道されるようになっても、トランプ大統領は、強制収容所や虐殺などは朝鮮半島の非核化と比べれば小さな問題だという態度を貫けるのか。アメリカ国民はそれを許すのか。

 その議論のためには、北朝鮮の人権問題を、より詳しく知っておく必要があるだろう。明日はその問題。(続)