2018年6月6日

 予想はしていたけれど、「やはりな」という感じ。本日の朝日新聞では、韓国にある「脱北者同志会」に対する文在寅政権の援助が弱まってきて、事務所費用は人件費に該当する部分が支出されなくなっていることが報じられている。

 北朝鮮のことだから、南北首脳会談などで国内の人権問題を提起されたら、きっと猛反発して、南北会談自身が破綻することになりかねない。実際、日本と北朝鮮の国交正常化交渉において、日本側が拉致問題を提起しただけで、北朝鮮側が席を立って出て行き、しばらく会談ができないという事態が続いた。

 実際に問題があっても認めないで、交渉が破綻しても相手に責任をなすりつけるというのは、北朝鮮の常套手段である。だから、北朝鮮との交渉は難しい。非核化交渉を進めようとすれば人権問題に目をつむる必要が出てくるからだ。しかし、韓国にはすでに何万人もの脱北者が住んでおり、北朝鮮に残してきた家族の安否を心配している。普通なら強制収容所送りになるからだ。
 
 その強制収容所には8万人から12万人がいると国連の報告書では想定されているが、それは韓国側の発表数値にもとづくもの。北朝鮮側はそれを「再教育センター」と位置づけているというが、韓国側も今後はそれを真に受け、国連に対しても報告しなくなるのだろうか。

 金正恩は父や祖父とは違うという説明もされることがある。違う側面もあるかもしれない。しかし、他の独裁国家と異なり、北朝鮮は世襲の独裁国家である。自分ではなく父や祖父がやったことだがら、自分には罪がないという言い訳がどこまで通用するものか。

 いや、拉致問題は父がやったことというのが真実であるし、それを言い訳にして、真実をすべて明らかにし、解決してほしい。しかし、強制収容所で死んだとされる50万人の家族は、父や祖父だけを恨んで本人を赦すという感覚になれるものだろうか。

 そうなることができれば、北朝鮮問題は平和裏に解決する可能性がある。けれども、50万人が死んだという事実にふたをすることでは、家族の気持ちが収まることはない。真実を明らかにする、しかし赦すという、南アフリカのアパルトヘイトを解決した道筋が北朝鮮にも適用できるかどうかだ。赦せないということになると、北朝鮮は内戦である。

 韓国はそこまで考えているのだろうか。脱北者に対する仕打ちをみてみると、北朝鮮の現実にふたをしようとしているようで、ちょっと心許ないね。本日から東京。

2018年6月5日

 今月の新刊『9条「加憲」案への対抗軸を探る』(伊勢崎賢治×伊藤真×松竹伸幸×山尾志桜里)を印刷所に入稿しました。15日に納品され、月末から書店に並ぶことになります。

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 それで、ふと思ってアマゾンを検索したんですが、「加憲」がタイトルに入っている本って、2つだけなんです(キンドル版ではあと1つあります。加憲賛成のものですが)。もう1つも弊社から先月出たもので、『憲法カフェで語ろう 9条・自衛隊・加憲』(あすわか×柳澤協二)。

 いや、びっくりしました。安倍さんが加憲を提起してからすでに1年を過ぎています。なのに、加憲を対象にした本は、これだけなんですね。もちろん、タイトルに入れていなくても「加憲」のキーワード検索で出てくる本はあるのですが、それも私の『改憲的護憲論』(集英社新書)だけです。

 どうなっているんでしょうか。本にするような論点を見つけられないんでしょうか。それとも、安倍さんの「加憲」案というのは、本でまともに論じるような対象ではないと、著者も出版社も思っているんでしょうか。弊社が特殊?! 

 ま、いいですけどね。独走させてもらいます。

 ということで、先週話が盛り上がって、この2つの本の出版記念講演会を合同で開くことになったんですが、その判断は正しかったということですよね。世の中に2冊しかない安倍「加憲」批判の本を取り上げるということなので。

 7月15日(日)午後2時から、大阪市総合学習センター第1研修室で(大阪駅前第2ビル5階)。パネリストは安全保障のプロである柳澤協二さん、憲法の伝道師伊藤真さんあすわかからは難民支援で「人間の安全保障」の大切さを説く弘川欣絵さん。私がコーディネーターを務めます。

2018年6月4日

 先週末、あるジャーナリストと大阪でお会いした。『北朝鮮報道のファクトとフェイク』という本を書いてもらうことで合意。楽しみ。

 そこで意気投合したことの一つは、トランプさんは、北朝鮮の人権問題には無頓着でやっていくだろうということだ。それは私がこのブログでも書いたことだが、北朝鮮の人権問題が改善されたところで、トランプさんにとっては一円の得にもならないしね。

 さらに議論したのは、そのやり方が、ただ北朝鮮だけでなく、トランプさんの政治を規律しているということだ。内政外交ともにである。

 だって、トランプさんって、民主主義国とはうまくいっていない。ヨーロッパとの対立を見れば明らかだ。そのジャーナリストが言うには、トランプさんの企業家としての成功も、自由な市場における競争で勝ち上がってきたというのではなく、例えばニューヨーク市長との癒着で仕事と利益を確保するというやり方だったという。

 まあ、「ディール」という考え方そのものが、それを内包しているよね。相手に権限がないと、それはできない。何か合意のために譲歩したとして、それを国内に持ち帰っても世論が納得しないで、合意がひっくり返ると「ディール」にならないわけだ。相手が独裁的な権限を持っている場合に成功するのが「ディール」ということだろう。

 だから、金正恩との「ディール」もうまくいくのかということだ。最初はうまくいくだろうとは思う。譲れる部分があるからだ。

 問題は譲れない部分にさしかかった時だろう。アメリカにとっては、自国の安全だけが譲れないのか、同盟国の安全も譲れないのかが問われる。北朝鮮にとっては、全体主義国家から普通の独裁国家になる程度は譲れるだろうが、金一族の支配が脅かされるのは譲れない。難しく長い交渉になるだろうね。

 ところで、トランプさんが安倍さんをうまくいっているように見えるのは、民主主義国はうまくいかないことの例外なのだろうか。それともトランプ原則が当てはまっていることのあらわれなのだろうか。
 

2018年6月1日

 書く本のタイトルを決めました。この記事のタイトルと同じなんですが、いかがでしょうか。

 いまから準備し、8月の休みを利用して一気にかきあげるつもりです。昨日引用した国連人権理事会への報告だけでもA4で450ページもあったりするし、この間不勉強だったので、かなり読まないといけないでしょうね。

 米朝首脳会談は成果を演出しないといけないので、しばらくは褒め称える報道が続くんでしょう。けれども、もともとジレンマのなかにあるわけですから、前進と後退を繰り返していくことになり、この本の生命力が失われることもないと思います。なぜ一筋縄でいかないのかとみなさんが思い始めた時、振り返って読んでいただく本にすることが目標です。

 ジレンマと言えば、アメリカもジレンマですよね。いや、アメリカこそが最大のジレンマを抱え込むことになる。

 例えば、一方のイランに対しては、核兵器開発を手控えているのに、体制を覆すような制裁を科すわけでしょ。核保有国になった北朝鮮には体制保障するわけですから、核開発は利益を生み出すと、世界中に思わせることになってしまいます。

 それに、核抑止力を放棄すれば利益になると北朝鮮を説得しているわけですが、それって究極的には自分の核抑止力をも否定する論理です。いいことだからすぐに問題になることはないにしても、ゆくゆくはボディーブロウのようになっていくことでしょう。

 それよりも何よりも、世界中に自由と民主主義を拡大するんだというアメリカの使命(マニフェスト・デスティニー、 Manifest Destiny)が、ここで地に落ちることです。これも悪いことではないので構わないのですが、アメリカの国民性を支えていたものですからね。そう簡単に変わるとは思えないし、そのブレみたいなものが、北朝鮮の非核化をめぐって混乱の要素になることもあり得るでしょう。アメリカがブレずに進んでいけるなら、人権問題への対処の仕方は大きく変わっていくのでしょうけどね。