2018年5月31日

 北朝鮮の非核化も体制保障も、中国にとっては望むところだろう。しかし、それが北朝鮮の民主化に向かうとなると、程度次第では中国が容認できないものとなり、ジレンマを抱え込むことになると思う。

 中国が北朝鮮との関係で現実的に困っていることは、脱北者の存在である。中国を通過拠点として韓国その他に亡命しているということになると、北朝鮮が容認できないことになるので、逮捕して送り返すことがままあるわけだ。

 しかし、たとえ経済的な理由であっても脱北までするような人間は、北朝鮮にとっては望ましからざる人物ということになり、政治犯として強制収容所に入れられる。子どもがお腹にいたりしたら、異民族の血を宿している可能性があるとして、堕胎を強要されたりもする。

 そういうことから国連の人権委員会は、毎年、北朝鮮の人権問題に関する決議と絡めて中国を批判している。まあ、あれだけの規模の脱北者を抱え込むことは中国にとってもリスクだし、事情は人権委員会も分かっているのだけれどね。同じ規模の脱北者が日本に来たらどうするかという問題もあるわけで、他人事ではない。

 ということで、送り返しても収容所に入れられないという程度の民主化なら、中国にとっても望むところになる。そこまでは中国もOK。

 けれども、そうやって北朝鮮で政治的な活動をしても収容されなくなり、それを力にして民主化運動が進んだらどうだろうか。金一族の支配体制が倒され、あるいは韓国主導で統一が進んだらどうだろうか。

 自分のすぐ隣まで、米韓同盟にもとづき、米軍が出現してくる恐怖を味わうことになる。北朝鮮が核保有を続けることと、米軍が目の前に来ることと、どちらかしか選べないとなったら、中国は前者を選ぶのではないだろうか。

 北朝鮮に関する正確な情報が少ないこともあって、「打倒に値するようなヒドい政権なのか」という疑問もあるかもしれない。そこで、4年前、国連人権理事会に提出された「朝鮮民主主義人民共和国における人権に関する国連調査委員会の報告」から、一箇所だけ引用しておく。

 「こうした(人権)侵害の重大性、規模、 本質は、同国が現代世界に類をみない国家であることを露呈させている。20 世紀の政治学者は、この種の政治組織を全体主義国家と特徴づけた。すなわち、一握りの人間による独裁支配に満足せず、そこから国民生活のあらゆる側面を支配し、国民を恐怖でねじふせようとする国家である。」

 ナチス・ドイツと同じように位置づけたんだね。そういう政権を存続させる体制保障って、やはり簡単なことではないのだ。

2018年5月30日

 米朝首脳会談をめぐって、非核化と体制保障に「ジレンマ」があることをかなりの回数で書き殴ったが、ジレンマがあるのはそこだけではない。日本も大きなジレンマを抱えているように見える。

 ここ1年ほどの安倍外交を見ていると、中国との間では「友好」の要素を強めようとしているようだ。軍事面で見ても、海空の連絡メカニズムがようやく実施される。

 これは不思議なことではない。安倍さんは第1次内閣の時、最初の訪問国として中国を選び、小泉さんの靖国参拝で冷え切った日中関係を打開しようとした。海空の連絡メカニズムも第1次内閣の時にやろうとしたことだ。戦後70年談話を見ても、日韓慰安婦合意を見ても、安倍さんはイデオロギー色を感じさせない決断をすることがある。ドライというか。そこにも支持率が下がらない源泉の一つがある。

 一方、悲願の改憲のためには軍事的な緊張関係が不可欠で、それでちょっと前までは、中国包囲網みたいなことをやってきたわけだ。だけど、経済的な利益のために割り切って、対決路線の相手を北朝鮮に絞り込んできた。実際に北朝鮮のやってきたことがあまりにヒドかったので、北朝鮮がいれば改憲には十分ということだったのだろう。

 ところがこの間の米朝の動きである。相当焦ったことだろう。

 それでも12日の前に日米首脳会談を持ってくるのはさすが安倍さんというところだ。首脳会談が成果を見せれば、「事前の日米会談で働きかけたから」と、支持率を引き上げる材料にするつもりなのだと思う。

 しかし、この動きが進んでいくと、そうはいっても「じゃあ、何のための改憲だ」ということにならざるを得ない。もちろん、一路非核化に進むとは思えないし、この間書いてきたように、非核化の進展はやがては体制の崩壊による緊張をもたらだろうが、それでも進む方向としては肯定的なものであって、緊張も和らいでいく。

 「あの国がコワいから改憲だ」なんて、これまでも言ってきたわけではないけれど、北朝鮮に対する国民の不安が問わず語りにそれを肯定してきた部分がある。改憲をめざす安倍さんにとっては大きなジレンマを抱え込んだ状態である。

 さらなるジレンマは、拉致問題に正面から向き合わざるを得なくなることである。核・ミサイル問題での北朝鮮の暴走を理由にして、「いまは圧力の時」と被害者家族と世論を抑えてきたのが通用しなくなっている。核・ミサイル問題は緊張をはらみつつも前向きに推移していくのに、拉致問題だけが残されることになると、まさに安倍さんの外交の問題だということが満天下に明らかになっていく。

 ただ、これを安倍さん糾弾の材料にしたとしても、「じゃあ、お前だったらどうやって解決するのだ」とブーメランになることは必至。他人事にせず、拉致問題をどうするのか提起できる政治家が、いま求められているように思える。

2018年5月29日

 本日もただただ馬車馬のように働いています。現在のような出版事情のもとで、過去の遺産もないような出版社が生き残っていくのは、本当に大変なことだと思います。

 ということで本日も安直に。自衛隊を活かす会の次回企画のご紹介です。

 自衛隊を活かす会は今年、「抑止力はこれでいいのか」を共通テーマにして、連続講座を開催することにしています。第1回は3月に開きまして、第2回目は先日、非公開でやりました。

 そして第3回目。6月22日午後5時半からです。「抑止と戦争──歴史家の視点」と題して、石津朋之さんにご講演をお願いしました。

20180622_抑止力はこれでいいのか③_抑止と戦争――歴史家の視点_1730

 私は読んだ本はほとんど寄付してしまうことにしていて、我が家の本棚はさびしい状態ですが(昔はベランダに倉庫などを置いていましたが痛みますしね)、石津さんが書かれたものは全部残しています。共著で他の方が書いた部分は捨ててしまっても、切り抜いて残しています。

 石津さんが追求しているテーマを掘り下げなければならないという問題意識が、ずっとあるんですね。日本での抑止力研究、戦略研究の第一人者でしょう。現在は防衛省防衛研究所の戦史部第1戦史研究室で主任研究官をしておられます。お話を伺うのが楽しみです。

 この連続講座は、研究会的な性格ですので、参加者は限定です。研究者、自衛官(現元)、政党・国会議員、メディアの方しか参加できません。何らかのかたちで将来、一般市民にも還元できるようにしますので、ちょっとお待ちくださいね。

2018年5月28日

 さてさて、本日は激しく本業に挑みました。ブログに費やす時間がないほどです。

 そこで本日の記事は本業のこと。この間、力を入れてきた『9条「加憲」への対抗軸を探る』が、ようやくメドがついてきました。自分でつくった書店向けのチラシをアップします。

加憲案対抗軸チラシ

 安倍さんが追い詰められ、9月に3選を果たせないとしたら、この本の寿命が縮まることになるので、早く出すために必死だったんですよ。個人的には安倍さんの早期退陣を望むけれども、出版人としては加憲案がもっと生命力を保たないと本が売れないという、これもジレンマですよね。

 しかし、安倍さんの3選、実際どうなんでしょうね。安倍さんにとって好都合なことは、当面、選挙がないこと。選挙があれば、「安倍さんでは勝てないから別の総裁候補を」みたいな動きも自民党内で生まれる余地もあるんでしょうけど、そこがない。

 だからやはり、加憲案に反対する人たちが、もっと大きな流れをつくらなければなりません。「これでは加憲案を利するものだ」みたいなことに拘泥しないで、いろんな考え方が合流して安倍さんを追い詰めていくことが大事でしょう。

 そこ抜きにモリ・カケで政局が動いても、護憲の運動が成長する機会はなくなります。この本が、そのために少しでも役に立てばと思います。

 6月16日に愛知の尾張旭で開かれる山尾志桜里さんと私の対談の前日に仕上がるでしょう。その日がお披露目です。お楽しみに。

 そういえば山尾さん、立憲民主党の憲法調査会で事務局長に就任されたとか。山尾さんの「立憲的改憲」とどう向き合い、どう協力し合うかって、ますます大事な課題になっていくのかもしれません。
 

2018年5月25日

 金正恩さんって、トランプさんのことを、これまでのアメリカ大統領と同じだと思っていたんでしょうね。ゆさぶりをかけたら少しは気にしてもらえるのではないかと。過敏に反応して過剰に行動する点で、自分と似ていると思えなかったんでしょうか。まあ、非核化と金一族支配体制維持のジレンマがどういう経過を経るのであれ解決していく(平和的にか暴力的にかは分かりませんが)長い過程の始まりということで、冷静に見ていきましょう。

 ということで、6月の3つめの企画です。主催はみやぎ弁護士9条の会。6月23日(土)の午後2時からです。

講演会チラシ最終版(2018・6・23)

 テーマは「緊急座談会「自衛隊と憲法」」ですって。「9条に「自衛隊」を書き込むことが議論されているのに、その当事者の話を聞かずに判断できるのでしょうか!?」と挑発的なコピー。

 私以外は超大物です。おなじみの柳澤協二さんと林吉永さん。林さんは元空将補。現在は柳澤さんが理事長を務める国際地政学研究所の事務局長をしておられます。この研究所、ホームページを見ていただければ分かりますが、顧問には石破茂さん、長島昭久さん、斉藤鉄夫さん、海江田万里さんなどそうそうたるメンバーが名を連ねています。それを取り仕切っている林さんがどんなご発言をするのか、興味津々ですね。

 なぜか私のメッセージがチラシに載っています。

 「自衛官の気持ちを心底から理解した上で護憲論が展開できれば、多くの国民の心に響くものになるのではないでしょうか。違憲論と使命感の狭間で自衛官が感じてきた苦悩、自衛隊が認められることへの期待と再び国民のなかで分断が生まれることへの躊躇、護憲だと現状のままだが加憲でも「何も変わらない」とされる違和感。じっくりとお話を伺い、議論しませんか。」

 米朝首脳会談の結果を踏まえ、7月に3冊の本を出す予定にしていました。会談が中止ということで影響は少なくありません。著者と連絡を取るため、朝からバタバタしています。予定通り出すメドをつけたところです。