2014年2月28日

 いま、福島に向かっています。月曜日も福島でしたから、今週2回目ですね。

 それにしても、3.11以降、ここまで福島にかかわるとは思いもしませんでした。もちろん、出版の分野としては、どの出版社でも重視するでしょう。だけど、毎年3.11の日に福島で企画を実施し、毎年2時46分に福島で黙祷をする自分なんて、想像もしていませんでした。

 それに、たしかに、編集者としてつながりのある人に頼んで企画を立案するわけです。1回目の蓮池透さんとか、1、3回目の伊勢崎賢治さんとか、2、3回目の池田香代子さんとか、今回のZABADAKも友情出演の菊地誠さんの本を出して関係があったからこそです。

 だけど、それなりに力を入れて実施するわけですが、昨年の企画を通じて本になった『福島再生』をのぞけば、それが本になるわけではないんですよ。だって、音楽企画が中心ですからね。

 うちの会社が、3.11の日は福島で過ごしたいという私の身勝手な気持ちから生まれたことを許容して、支援してくれたのは、本当に感謝しています。昨年からは交通費も出してもらっているし。

 しかし、今年で最後にするつもりだったんです。いつまでも甘えることはできないと思ってね。実際、会社として後援するのは、もしかして最後になるかもしれません。

 それがですね、先日書いたことですけど、福島原発裁判の本を出すことになって、考え直さなくちゃならないと思い始めました。だって、福島の人にとっては、これで最後どころか、これから裁判なんですよ。実際、この本だって、1回出しただけでは終わらないでしょう。

 それに、3回とも、企画を支援するツアーを実施していますが(札幌、東京、京都から)、参加者の数を見ると、やはり福島への関心は薄くなりはじめていることを実感します。そこを打開することも考えなければなりません。

 今回の本は、その有力な手段となる可能性もあります。福島の読者に対しては「原告になって闘おう」と、そして全国の読者に対しては「福島と一緒に闘おう」と、呼びかける本ですから。

 タイトルを考えました。『あなたの福島原発訴訟』。いかがでしょうか。原告や支援者になる気持ちが沸き上がりますか?

 今回の本、沢田研二さんらがコラムを書いてくれる可能性もあります。そしたら、沢田さんのコンサートも可能になるかもしれませんよね。ツアーも再び盛り上がるかなあ。がんばります。

2014年2月27日

 NHKの籾井さんのこと、あまり書きたくない話題だけど、1回くらいはね。いろいろ考えたことがあった。

 これまで、メディアって、いい言葉でいえば「矜持」、ふつうの言葉でいえば「建前」というものがあった。何かと言えば、メディアの役割は「権力の監視である」というものだ。

 そう言わないと、メディアとしての役割を果たせないと、関係者は思っていたのだ。そして、権力と一体となっている中国国営テレビなんかをバカにして、イギリスのBBCを模範にしていたという感じだろうか。

 だけど、本音は、少し違っていたように思う。だって、国からお金をもらって放送するのだから、いくら「権力の監視」とか言っても、限界があるのは当然である。だから、本音としては中国国営テレビだが、建前はBBCにしておこうというものだったかもしれない。

 籾井さんは、そこを正直に言ってしまったわけだ。「NHKは権力の代弁者でしょ」と、本音をストレートに発言した。

 ふつうは、そういうことを言うと、メディアとしての信頼性が崩壊するわけである。実際にNHKの信頼性は崩壊していて、大手新聞社の幹部と話したりすると、「このまま籾井さんに会長をやってほしい。NHKの信頼性が地に落ちて、うちの信頼性が向上する」なんて本音を吐く人もいる。

 なぜ、こんなことになったのだろう。私は、政治の影響だと思う。

 小泉さん以来だろうか、本音をしゃべることが支持につながる、という感じになってきた。靖国参拝とかに代表されるものだ。

 それまで、政治家って、本音をおさえて、理性でやっていくという要素があったのだ。隣に嫌いな国があっても、「あなたの国と仲良くしたい」と言わないと、うまくいかないのが政治である。「ひどい国だね」と罵倒したら、関係が悪化して、歴史の教訓では軍事衝突の可能性が生まれてくるなど、よけいに大変になるから、理性的になろうと思ってきたのだ。

 だけど、理性を捨てたら、国民の支持が広がることが分かった。それで、建前より本音ということになったのだ。

 そういう風潮が、安倍さんの登場で、政治以外にも広がり始めている。それが、籾井問題なんだろうな。これを打ち破るには、本当に力がいると思う。どうしようかね。

2014年2月26日

 3月9日にかもがわ出版が後援して福島で実施する企画が近づいてきました。「福島で子育て中の家族集まれ! 音楽のつどい」です。午後1時開場、1時半開会です。

fukushima14.03.09
 月曜日、その会場である福島市音楽堂を見てきました。すごい会場でしょ。パイプオルガンが目を惹きますね。使わないけど。隣に古関裕而記念館があって、「ああ、なるほど」と納得。そういう土地柄で、こういう音楽堂ができているんだ。

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 企画の当日、出演者の車をどこに停めるかとか、参加者をどのように誘導するかとか、どこでチケットを販売するのかとか、書籍やCDの販売はどうするかとか、いろいろと事前に知っておかねばならないことが山ほどあるんです。事前に行っておいて良かったです。

 月曜日はその後、仙台へ。宮城教育大学の学長を経験された方にお会いし、本の執筆についてお願いしてきました。そうしたら、宮城9条の会の代表委員も務めておられるとかで、私が昨年書いた平凡社新書2冊をはじめ、いくつか本を読んでくださっていて、「あなたのファンなんですよ」ですって。はあ、こういう出会いもあるんですね。

 火曜日は、会社の東京事務所で仕事をしたあと、とある法律事務所へ。「生業を返せ! 地域を返せ!」とがんばる福島原発事故原告団、弁護団の本をつくる相談です。

 昨年3.11に800人で訴訟を開始し、いますでに原告団は2600人程度になっています。そのなかには、この間、私が福島の本をつくったり、毎年の3.11現地企画を通じて知り合った方も多く参加しています。そういう関係者が、この本をつくるならかもがわ出版しかないと判断し、依頼してくださったんです。大変うれしいことです。

 前にもご紹介しましたが、3.11以降、こんなにたくさん福島関連の本をつくっているんです。そして、このチラシは裏で、表は「音楽のつどい」なんですが、いま福島の書店のレジで何千枚と置かれています。

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 今回の本は、手にしてもらった読者に、「あなたも訴訟に参加しよう」と訴える本なんですが、どなたかいいタイトルを考えてくれませんか。いま、福島にかかわって何かしたいと考える方は多いんですが、何をしたらいいか分からなくて、少しずつ関心が薄れているように思います。そこを突破したいんです。

 夜は、ある飲み会。学生時代の友人で某新聞社のエライさんと、その先輩。活字にはできませんが、いろいろと話し合ってきました。

 本日、午前は、辻井喬さんのお別れ会で、帝国ホテルへ。本当に残念な方を亡くしました。

 午後はそのまま京都にもどり、4時から会議を主宰して、6時半からは集団的自衛権について講演します。ホントによく仕事をするよなあ。

2014年2月25日

 今回でこの本の書評は終わり。まず、論争のやり方という点から。

 石破さんについては、多くの方が軍事専門家(オタク?)だと思っているだろうし、本人も自負があるだろう。そういう方の書いたものを論評する場合、軍事偏重を批判しても意味がない。読む人は、実際に軍事偏重しているかどうかは別にして、軍事の話を聞きたくて石破さんの本を買うわけだから、軍事ばかりだと批判しても、「当然のことでしょ」と考えるだけである。

 そうではなくて、そういう場合、石破さんの「強み」である軍事の部分で勝たなければ、勝ったことにならないわけだ。これは論争の基本である。グラムシだったか、理論闘争では、相手のいちばん強い部分で勝たなければならないと言っている。だから、昨日の記事では、アメリカの艦船だけが単独で攻撃されるという石破さんの想定のおかしさ、非現実味を書いたのである。

 ただ、アメリカの艦船だけが単独で攻撃される想定は非現実的だとはいったが、過去に、そういう事例が存在しないわけではない。石破さんが知っているかどうかは分からないが、私はふたつの事例を知っている。

 ひとつは、米西戦争でキューバを占領したときである。アメリカは、自国の艦船(メイン号)がスペインに攻撃されたことを口実に、“Remember the Maine”を合い言葉にして、スペインの植民地であったキューバを我が物にした。しかしいまでは、これはスペインの攻撃ではなく、燃料の偶然の爆発によるものだったというのが定説になっている。

 もうひとつは、トンキン湾事件である。米艦船が北ベトナムに攻撃されたとして、アメリカは北爆に乗りだすのである。しかしこれは、アメリカによるでっち上げだったことが、のちに国務省の秘密報告が暴露されて明らかになるのだ。

 石破さんは、アメリカの艦船だけが攻撃される事例を示したいなら、この程度の勉強はして、「あり得る」と言わねばならない。もしかして、勉強した結果がこれだったので、「ああ、米艦船が単独で攻撃される事例って、いかがわしいんだ。とても持ち出せない」と思ったのかもしれないけどね。

 まあ、このような批判が説得力をもつのは、柳澤さんら防衛省OBから批判が出てきたからであって、これからも大事にしたい。でも石破さんが、おそらく最後の一線だと思っていることがあって、それが自衛官のことである。柳澤さんなど官僚からの批判はあるが、制服組である自衛官OBからは集団的自衛権批判の声が出てこないのを、とっても強調している。声が出た場合もあるけど、それは賛成する声だったとこの本でのべている。すがりたいんだろうね。

 でもね、石破さん、そこを近く突破しますので、楽しみに待っててください。6月です。

2014年2月24日

 読了しました。薄い本なので、すぐ読めるし、改憲勢力がどんな論理で攻めてくるかが分かるから、この問題をまじめに考える人にとっては不可欠だと思います。ご一読をお薦めします。

 いろいろな論点を提示しているので、一言でこの本の性格付けをすることはむずかしいです。まず言えることは、集団的自衛権に対する批判に反論しようという意図で書かれたことですね。

 前回に書いた実態面のこともあります。同時に、防衛省の元幹部(運用局長)である柳澤協二さんに対して、名指しで何回も批判をおこなっています。柳澤さんというのは、うちの会社から、『抑止力を問う』『脱・同盟時代』『対論 普天間基地はなくせる』『国防軍 私の懸念』と、4冊も本を出されている方です。

 柳澤さんは、第一次安倍政権のとき、内閣官房副長官補として安倍さんに仕えていました。安倍さんが集団的自衛権を推進するため、第一次安保法制懇をつくったときですが、それに抵抗した方でもあります。この間、たとえば、4類型が実態に合わないことを批判しています。

 たとえばアメリカ本土へ向かうミサイルを撃ち落とすという問題。第一次安保法制懇で大まじめに取り上げられていますが、柳澤さんは、アメリカに向かうミサイルを撃ち落とすのは技術的に無理だとして、なぜできもしないしことをやるために解釈改憲までするのかと主張しています。

 それに対して、石破さん、「確かにアメリカ本土に飛んでいくミサイルを日本から撃ち落とすことは現状できません」と、あっさりと認めています。そして、いまはできないけど、将来できるようになるかもしれないから、それに備えて解釈改憲しておくって言うんですよ。技術的に可能なのに撃ち落とさなかったら日米関係がもたなくなるっていうのが、鳴り物入りで出された安保法制懇の報告だったんですけど、いったいあれは何だったのでしょうか。脅しておいて、その嘘が見破られたら、あっさりと引き下がるなんて、。4月に出る次の報告の信頼性が問われますよ。

 公海上でアメリカと日本の艦船が近くにいて、米艦船が攻撃されたとき、集団的自衛権が発動できないと自衛艦が米艦船を守れないというのも4類型の代表格です。それに対して柳澤さんは、戦争するというのに在日米軍基地を攻撃せずに、ひとつの米艦船だけを攻撃するなんて、戦争の常識としてあり得ないことを指摘します。また、日本がアメリカに海上給油するなどの場合、まさに一体となって活動しているわけであって、米艦船への攻撃は自衛艦への攻撃だとみなせるだろうと主張しています。

 石破さんは、これに対しては、いや、もっと離れたところに米艦船がいる場合もあるのだというわけです。だけど、離れれば離れるほど、何のために日本が参戦するのだという疑問が強まりますよね。それに、アメリカのひとつの艦船だけを攻撃する戦争という非現実にに対しては、何も答えていません。

 ということも含め、石破さんの本って、戦争の常識からずれているんですよ。実際に戦争を戦うことを想定してものを考えていない人が、解釈改憲のために頭を使うと、こういう本になるという感じだと言えばいいでしょうか。

 先ほどまで、福島市音楽堂に来ていました。これから仙台へ。そして東京へ。忙しい。