2016年6月16日

 必要があって、戦後の日米安保関係の本を乱読しているが、その過程で、1960年11月20日の総選挙の当時のことを書いた本に目を通した。なるほどなと思った。

 自民党の谷垣さんだったと思うが、新安保法制が通ったあと、安倍さんに対して、これからは経済の季節にすべきだと進言したという報道があった。それを受けて一億総活躍社会とかが出ているわけだが、その根拠として谷垣さんが提示したのが、60年の安保条約の強行採決のあと、岸さんが退陣して、池田勇人内閣が経済重視を打ち出し、次の選挙で勝利したという歴史だった。

 その時は、まあそうかなと思う程度だったが、このときの自民党って、安保国会で高まった自民党への逆風をかわすため、かなり本格的にやったんだね。60年9月に「自由民主党新政策」というのを出している。政策からして「新」ということで、岸政権と違うことをアピールしようとしたわけだ。

 「新政策」には二つの柱があって、一つは「国会運営の公明なルールを確立し、寛容と忍耐をもって話し合いによる政治の運営につとめる」ことだった。もう一つが、言わずと知れた「所得倍増計画」である。

 そう、経済重視といっても、池田さんが掲げたものと安倍さんがいま掲げているものは、そのインパクトにおいて大きな違いがある。しかも、「寛容と忍耐」「話し合いによる政治」だから、新安保法制を強行したことを少しも反省していない安倍さんとは、ここでも違っている。

 池田さんは国民に「自民党は変わった」と印象づけて勝利したわけだが、今回、60年安保後の教訓を踏まえて経済重視への転換を印象づけるといっても、そもそも事情が違うんだよね。岸さんが退陣したのに安倍さんは続投していて、「変化」を印象づけること自体に無理があるわけで、同じことは望めないだろうと思われる。

 安全保障の対立軸も異なる。60年選挙では当然のこととして安全保障も争点になり、自民党は新安保にもとづき自由世界の一員としての役割を果たすことを訴えた。一方の野党は社会党が中心であって、「非武装中立」だった。いくら安保国会の後だといっても、これでは無理があった。

 今回は新安保法制を廃止するか堅持するかが対立していて、現行の自衛隊を安保条約を廃止するかどうかは争いになっていない。「非武装中立」を掲げる政党は一つもない。

 だから、少なくとも政策面において、野党が少数派にとどまるという状況が存在するわけではない。そこをどう生かしていくのか。多数派になるのは簡単ではないだろうけどね。