2017年7月10日

 核兵器禁止条約に関する本ですが、「必ず原水爆禁止世界大会に間に合う」と、ようやく言えるようになりました。著者の冨田宏二さん(関西学院大学教授、原水禁世界大会起草委員長)のご奮闘、すごかったです。

 いつだったか、7月7日に条約が採択されるということが伝わってきたんです。その時、それなら頑張って準備したら8月6日に間に合うのではないかと準備を開始したわけです。

 普通なら、条約が採択されてから、本を書き始めますよね。その方法だと、どんなに努力しても、本ができるのは年内でしょう。

 でも、3月に国連会議の第一回会期が開催されるので、それで基本方向は見えるだろうから、その時点の到達で3時間程度の学習会をやってテープ起こしをして、それをもとに条約の議論の進行を踏まえ、原稿を整理していってもらおう。そういうやり方ならできるだろう。もし間に合わない場合でも、意味のある本になるよなと思っていました。

 この条約をつくろうと中心になった数十か国が同じ方向を向いていたから、基本方向でぶれることがなく、準備はそれなりに順調に進みました。条約草案が5月に公表されたので、その時点で条約にそって執筆してもらえることになったのもありがたかったです。

 しかし、簡単ではないこともありました。形式的にも内容的にもです。

 形式の点でいうと、7月7日の採択というのが何を意味するのか、最後までよくわからなかったことです。具体的に言うと、国連総会での委託を受けて準備が進んだわけですが、190を越える加盟国の内120数カ国が参加し、議論して採択するとして、それで終わりなのか、それとも国連総会での採択が求められるのかということです(朝日新聞は6月20日付の社説で最終的には国連総会で採択されると書いていました。社説の間違いは誤報とは言わないんでしょうか)。それによっては、7日に採択されてもまだ「案」のままということになり、本のタイトルを変えるか、正式な採択まで出せないかもしれなかったんです。

 まあ、こんな形式での条約の策定は、歴史上初めてのことで、誰もわからなかったんですね。最後の局面で、会議に参加している国々からも、同じような質問が出されたそうです。それでエレン・ホワイト議長が、「国連総会からマンデートを受けているのだから、会議で採択されれば確定するのだ」と答えたということで、こちらもホッとしたわけです。空約束と言われずに済んだのですから。

 内容面で言うと、このブログで書いたことですが、「核兵器による威嚇」の扱いです。これは核抑止力の中心をなす概念で(使うぞと言って威嚇することで相手が手を出さないようにするのが抑止力ですから)、スウェーデンなどが「「核の傘」にある国の条約参加を促すため威嚇は外そう」と提案し、その方向だったのです。実際、そのことで、NATOの一員であるオランダが会議に参加することになりました。しかし、オランダの懸念を振り切る形で、「威嚇」も禁止されることになったというわけです。

 この評価は簡単ではありませんが、いずれにせよこのことで、条約は「核抑止力」を否定するものとして成立することになりました。世界は、核抑止を否定して安全保障を考えようという100数十の国々と、核抑止を安全保障の基本におく核保有国とその同盟国に分かれたという状況です。

 結局、そういう分断を克服するには、この日本を含めて、核抑止に頼らない安全保障をどうするのかという問題を提起して、それを国民合意にするしかありません。そう簡単なことではありませんが、大事なことです。「自衛隊を活かす会」の役割がますます重要になっているということでしょうね。