2015年4月10日

 明日から4泊5日の出張。「さよなら安倍政権」シリーズの著者とお会いするとか、学校図書館向けのイスラムの本の打ち合わせとかいろいろあるけれど、連休明けに問題になる新安保法制がらみの仕事が中心かな。

 新聞記者と会って情勢取材をしたり、「自衛隊を活かす会」の呼びかけ人・事務局会議で議論したり。とりわけ、「さよなら安倍政権」シリーズでこの問題を書いていただく柳澤協二さんとは、綿密なご相談が必要である。

 ゴールデンウィーク明けの5月中旬に法案が閣議決定されるということだが、そうしたらその法案全文を資料として入れた上で、5月末には本として仕上げようという荒技を予定している。月刊誌のような感じだね。書店に並ぶのは6月だと思いますが。

 それで、少し時間的余裕ができたので、この間、新安保法制をいろいろ勉強してみた。いやあ、分かりにくいよね。いくつかの新聞が分かりやすくしようとして、いろんな試みをしているけれど、さっぱり理解できない。

 まず、本筋が、それらしく扱われていない。今回の法制は、集団的自衛権を容認するという、戦後政治の大転換を具体化するものである。それに対応するのは、基本は「武力攻撃事態法」の改正だが、そこに「新3要件」を書き込むというだけで、与党協議ではまじめな検討の対象になっていない。他の法改正では、国連決議がいるかどうかとか、地理的限定をはずすかどうかとか、具体的なことが議論になっているのに、集団的自衛権の行使という一番大事な問題では、ホルムズ海峡の機雷を除去するとかという、空想的なことが議論されているだけである。新聞の扱いも小さい。

 これって、アメリカから求められて是が非にでも、というものでないことの反映である。一番大事なことが空想的で、だから議論されないというところに、分かりにくさのおおもとがあるように思える。

 さらに、戦争中の米軍等を後方支援するという枠組みが、きわめていびつで分かりにくい。新規立法となるいわゆる海外派兵恒久法が後方支援法制になるのだけれど、現存の法改正で済む周辺事態法も同じく後方支援である。これまでだったら、周辺事態法は日本周辺であって、恒久法は全世界という区分けも可能だっただろうけれど、周辺事態法から「周辺」という地理的概念を外すことになっているので、訳が分からなくなってしまった。

 まあ、私なりに法制定者の立場に成り代わって解説するとすれば、ひとつだけ違いは存在する。周辺事態法は日本の平和と安全に重要な影響をあたえる事態での後方支援だから国連決議等の要件はいらないけれども、恒久法はそうではないので国連決議が必要とされるという違いである。

 でも、その国連決議が必要というのが、まったく説明されていない。湾岸戦争は国連決議によって武力行使が担保されたことで大方の一致は得られるだろうけれど、アフガニスタンでは、まず国連決議なしにアメリカが武力を行使し、その後、国連決議にもとづきISAF派遣された。だから、ISAFの後方支援はできるということになるかもしれないが、そのISAFは、国連決議なしに派遣されて作戦をしているアメリカの指揮下にあるわけだから、もうぐちゃぐちゃである。しかも、日本政府は、あれだけ国連のなかの多数が反対し、安保理でも総会でも決議がされなかったイラクの事態においても、10年以上も前の国連決議があるからアメリカの戦争は国連決議にもとづくものだと解釈してきたわけだから、こんな要件はたとえ法案に書いてあってもなきに等しい。その上、アメリカが先制攻撃した場合でも支援するというわけだが、アメリカが先制攻撃(侵略)するのを国連が決議で応援するなんてあり得ないわけで、もう開いた口がふさがらない。

 さらにさらに、こうして法案上は、湾岸戦争でもアフガニスタン戦争でもイラク戦争でも、日本は後方支援できる構造になっているのに、安倍さんが、「湾岸戦争やイラク戦争のようなものには参加しない」と言明し、問われてアフガニスタン戦争のようなものも同じく参加しないと言っているので、よけいにややこしい。法案上も参加しない仕組みなのか、ただ法案を通すために言っているだけなのか、PKO法案の議論のときに問題になったように、「参加」は違憲だが「協力」は合憲だというのか、さっぱり不明である。

 集団的自衛権の方と異なり、こっちは現実にあり得る事態である。しかも、対テロ戦争ということで、すぐに問われてくる問題である。それなのに、与党には、これで自衛隊が殺し、殺されることになるという切迫感がない。

 しかもしかも、国連決議の曖昧性にくらべ、PKOへの参加は、あくまで国連のPKOなので、危険かどうかは別にして、国連活動への参加ということは明確だった。しかし、今回の法改正では、自衛隊のイラク派遣のようなものは、このPKO法に盛り込むというのである。恒久法や周辺事態法は戦争中の米軍への支援なので、戦争が終わったあとはみんなPKO法にまとめるというのだ。国連の活動かどうかで分けるのでなく、戦争中か戦後かで分けるなんて、国際法上の正当性なんかどうでもいいということだ。

 こうしてなんだか分からないグレーゾーンを広げているのに、それだけじゃなくて、これとは別にグレーゾーン事態への対処というのがある。これを理解せよという方が無理であろう。

 複雑でワケが分からない方が通りやすいと思ったのか。何の理念もなく、安倍さんの信念に応えたり、アメリカの要求に従ったり、いろいろパッチワークのようにしているうちにこうなったのか。そういうところに、もしかしたら、新安保法制を批判する上での大事な見方がひそんでいるかもしれないね。