2015年7月17日

 「陛下はさらにこの同盟(日独伊三国同盟のこと・松竹)の締結は、最後には日米戦争となる懸念を当然起こさせるという御見解を述べられ、この点を近衛首相及び松岡外相に御下問になりました。しかるに両氏はこれに対し、この同盟の目的は日米戦争の防止にあり、かつもし同盟を締結しなければ太平洋戦争勃発の危険はかえって大となる旨を奉答しました」

 来月上旬に予定される歴史認識問題での安倍談話を主題とした本を書いているので、いろいろなものに目を通している。いま引用したのは、昭和天皇の側近だった木戸幸一内大臣が東京裁判に提出した供述書の一部。

 解説の必要はないだろうが、日独伊三国同盟をつくったりしたら、アメリカに軍事的に対抗するのを宣言するようなものなので、対米戦争が起きることを昭和天皇が危惧した。それに対し、近衛首相と松岡外相が、そうじゃない、これで対米戦争の危険が減るのだといったというのが、木戸の供述である。

 昨日、この部分を読んでいるとき、新安保法制が衆議院を通過し、政府や各党の談話がテレビで流れていた。安倍さんは以下のようにいっていた。

 「日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。日本国民の命を守り、戦争を未然に防ぐために、絶対に必要な法案だ」

 三国同盟の目的が「戦争の防止」だったように、新安保法制も「戦争を未然に防ぐ」のが目的。片方を目で見ながら、もう片方を耳で聞いて、あんまり似ているので、不謹慎だけど、ついつい笑ってしまった。

 安倍さんの頭のなかには、「祖父は、国民の猛反発のなかで安保条約を通したけれど、その後55年、戦争は防止された」という思いがあるのだろう。あるいは、「牛歩戦術のなかでPKO法を通したけれど、いまやPKOはほとんどの国民が賛成している」とか、そんな気持ちもあるかもしれない。

 もちろん、自国防衛のために必要な体制を整備するのは、戦争の防止につながることがある。相手が武力攻撃をしてこないかぎり自衛権も発動しないことを明確にしていれば、相手を挑発することにもならない。PKOも、紛争当事者の合意にもとづくものに自衛隊が参加するなら、紛争を完全に終わらせるのに役立つこともある。

 だけど、新安保法制は、そこを踏み越えるわけだ。日本を攻撃していない国に対して、日本から攻撃できるようにするわけだ。

 だから、安保条約を支持する人も、自衛隊のことを愛している人も、多くが反対しているのだ。安倍さんは、問題を平板にとらえていて、質的な変化とか飛躍とか、そんなものを感じ取る力はないのだろう。

 日独伊三国同盟(1940年9月)は、12月の対米開戦につながったという点で、まさに「ポイント・オブ・ノーリターン」だった。新安保法制が開戦につながったということにならないよう、全力でがんばらなくちゃね。