2017年2月13日

 これはサブタイトル。メインは『若狭の聖水が奈良に湧く』だ。96ページ、800円+税で、21日発売予定(弊社のホームページではもう注文できる)。

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 奈良の東大寺の「お水取り」は有名である(私はテレビでしか観たことはないが)。3月12日の深夜になると、東大寺の若狭井という名前の井戸からお水をくみ上げ、本尊の十一面観音(誰も見ることのできない絶対秘仏だそうだ)に供えるのである。天平勝宝4(752)年からずっと続いているというから、今年は1266回目ということになるのだろうか。

 ところで、この井戸、なぜ若狭井という名前かというと、福井県若狭の水が湧くからだ。普段は枯れているのだが、12日の深夜だけ湧き出すというのだ。若狭から東大寺まで90キロくらいあるのだが、地下を通じて流れてくるという伝承がある。実際、京都を中心に(兵庫県でも)、下をこの水が通っているという言い伝えが残っているそうだ。

 毎年3月2日、その若狭では、「お水送り」の神事が行われる。小浜市の山間を流れる遠敷川「鵜の瀬」の河岸が舞台。朝から一連の行事があるらしいが、最後、2000人の松明行列が1.8キロを歩き、「鵜の瀬」で僧侶が「送水文」を奏上して、川に聖水を注ぎ込むらしい。

 「謎」だらけのこの問題に挑んだのが本書。著者は元朝日新聞記者で、6年間、小浜市に勤務していた間に関心を持っていたが、退職後、本格的に文献にあたり、伝承地を訪ねたりして、本書を書き上げた。

 福井県立若狭歴史博物館館長の柴田寿郎氏が、「お水送りについての総括と言えるすばらしい内容」と推薦。元小浜市長で全国歴史研究会本部正会員の村上利夫氏が、「お水取りの聖水とともに飛び出す鵜についての考察は初めて見た」と書いているが、その鵜の役割をはじめ、新しい考察がされているのが特筆される。

 先日、著者が小浜市役所で記者会見をしたのだが、市の文化担当者も同席し、この本の意義を語ってくれたといいう。福井新聞にはその会見の内容が詳報されており、中日新聞の福井版にも近く掲載されそう。朝日新聞の著者への取材もすでに確定しているので、3月12日に向けて盛り上げていきたい。

2017年2月10日

 本日も、集中して原稿を整理する仕事をしていて、ものを考える余裕がありませんでした。だから、ボヤッと考えたことを。

 稲田朋美さんの国会での発言が話題になっていますよね。南スーダンでは、実態はどうあれ、日本の憲法解釈でいうところの「戦闘行為」は発生していないのだと。

 これは、これまでの政府もずっとそうでした。小泉さんの時代は、「自衛隊がいるところが非戦闘地域だ」という名文句もありました。

 だから、同じだと言えば同じなのですが、違いもありますよね。小泉さんは堂々としていたというか、憲法に違反することは自分では分かっていて、ホントは本音を言いたいけれど、総理大臣としては憲法に合致していると言うしかないので、「あなたも分かっているでしょ」と開き直っていたわけです。明るく。

 だけど、稲田さんの場合、自信なげに言っている感じですよね。まあ、政治家としての風格の違いでしょうか。

 ただ、もう一つ、違いを挙げるとすれば、自衛隊員が本当に危険にさらされているという切迫感が、いまは存在することでしょう。小泉さんの時には、官邸でイラクの自衛隊を統括した柳澤協二さんに言わせると、どうせアメリカのお付き合いで行くんだから、命をかける必要はないんだという空気が官邸のなかにあったということです。いま、安倍さんが自衛官に命を投げ出せという空気を感じさせているかどうかまでは分かりませんが、現実の事態は切迫しているので、何らかの時の責任という問題は生じるでしょう。やはり答弁もおどおどとしたものにならざるを得ないのでしょう。

 それにしても、戦闘行為とは、国または国に準じる組織が当事者となって起こるもので、南スーダンの場合、政府は当事者だけど、副大統領派は組織系統もないし、領地もないから、戦闘行為ではないということです。まあ、その論理、まったくおかしいとも言えないと思います。

 だって、たとえばナチスによるユダヤ人虐殺は、まさに平時において開始され、だから従来の国際人道法(戦時適用)では裁けなくて、ニュルンベルクで平時でもジェノサイドは裁けるという新しい法体系をつくったわけですから。短期間に100万人が虐殺されたルワンダでも、確かに虐殺された側は、組織系統もなかったし、領地をもっていたわけではないですよね。

 だから、憲法九条を持ち出さずとも、たしかに「戦闘行為」ではなかったのかもしれない。実際、交戦する力がある軍隊が、交戦能力のない人たちを一方的に虐殺しているわけですから。

 問題は、でも目の前で虐殺が進行しようとしていて、ところが自衛隊は施設をつくるのが任務の部隊に「警護」の任務を与えて派遣していることです。何十万もの人を虐殺する軍隊を前にして、自衛隊が何らかの仕事ができるのか、仕事をさせて、殺すにせよ、殺されるにせよ、その結果に稲田さんがどう責任をとるのか。そこを私は聞きたいと思います。

2017年2月9日

 本日、10万字程度の原稿を直し、整理する仕事をしている。こういう仕事を短時間でする場合、新しいことは考えられないんだよね。だからブログ記事の材料も出てこない。ということで、最近のニュースで思ったことを簡単に。

 憲法改正をめぐって、自民党のなかには、改正項目を絞り込む動きがある。緊急事態条項と維新が求める教育無償化の二つとなり、しかも前者は、政府の権限を強化する方向でなく、国会議員の任期を延長できるようにするということらしい。

 これを批判するのは容易い。参議院があるのだから緊急集会で立法化が可能だとか、教育の無償化は財源があれば憲法規定は関係ないとか。

 だけど、じゃあ、そのために憲法を絶対に変えてはダメというまでの論理は、成り立ちにくい。「そんなことに力を入れるより、政治がやるべきことは別にあるだろう」とか、「改憲のハードルを下げるのは、とにかく1回やって改憲の実績をつくり、9条改憲に結びつけるためだ」とか、そんな程度だ。
 
 だから、これでやってこられると、対抗する側は分裂することになる。議員の任期延長について、民進党の細野さんも「この程度なら」と言ったと報道されている。4野党は「安倍政権のもとでの改憲に反対」で一致しているはずなのに。

 護憲派だって、これにどういう態度をとるかでは、賛否が分かれるだろう。その結果、九条が問題になるとき、団結が崩れているかもしれない。

 護憲派は、堂々と九条を先に持ってこいと、安倍さんに求めたほうがいいのではないか。なるべく先延ばしにして、できれば国民投票なんかしないことを望むのが、護憲派の多数かもしれないけど、先延ばしにしていいことはないんじゃないだろうか。

 9条の会だって、どこへ行っても、結成のときから高齢者が多かったのに、そのまま10年が経って、多くは同じ人がやっている。「この闘いがいつまで続くんだろうか」という不安の声を聞くことも多い。今のほうがエネルギーがあるんじゃないかな。

 さらに言えば、トランプさんが登場して、日本の安全をどうするかが国民に問われている。「九条を変えてこのトランプさんについていくのか」は、攻めの材料になるんではないだろうか。

 

2017年2月8日

 日米首脳会談が近づいてきて、安倍さんは、トランプさんと仲良くするため、いろいろ苦労しているようだ。実際にはアメリカのために仕方なく投資するわけだが(損を覚悟で)、それだと「朝貢外交」という批判を受けるから、「日米成長プログラム」と名前をつけて、日本のためであるかのように装うという。

 これって、これまでと同じ手法だ。思いやり予算を出すのも、米軍が日本のために駐留してくれているから、という論理だった。イラク戦争を支持し、自衛隊を派遣したのも、実際はアメリカを助けるというだけのことだったのに、北朝鮮が日本を攻撃してきたときにアメリカに助けてもらうために不可欠なのだ、と小泉さんは説明した。

 それを日本の世論は容認したのだから、今回も大丈夫だというのが、安倍さんの判断なのだろう。だけど、そこに深い陥穽が横たわっているように見える。

 安倍さんは第2次内閣を組織して以降、かなり変わった。「戦後レジームの転換」などという超右翼的な主張を抑制し、「左」にもウィングを伸ばしてきたのだ。戦後70年談話で「侵略」「植民地支配」「お詫び」「反省」のキーワードを入れたことにも、それは象徴的にあらわれている。昨年末の日韓慰安婦合意も同じだ。

 支持率が高止まりしているのも、それが背景にあると思う。左まで支持しはじめているのだ。改憲一直線のため、安倍さんは自分を抑制して、戦略的に動いている。

 そこを見過ごして、とにかく「安倍は極右」という思いこみのまま、「反安倍」のスローガンを先行させているから、支持率の高さを崩せないできた。その運動の側は、なかなか変わりそうもない。

 しかし、トランプさんとの親密さを売りにしようとすることで、安倍さんはみずから墓穴を掘りそうだ。だって、助ける相手方であるアメリカが、これまでと異質なのである。安倍さんがトランプさんに媚びを売って、にこにこ顔で横に並んで写真を撮る度に、安倍さんがトランプさんと重なって見えてくるようになる。せっかく左まで味方につけたのに、これだと政治的立場を超えて、安倍さんのことが生理的に嫌いになるかもしれない。

 アメリカが日本を防衛するのかという、日米安保の本質的な部分も、これから問われてくるだろう。「尖閣が安保5条の適用対象だ」なんて口でいろいろ言っても、トランプさんのツイッター一言で、がらりと局面が変わるのだ。貢いでも貢いでも、一瞬で裏切られるのだ。

 これまでは従属が安心を生んだのだが、トランプ時代は逆に不安を生むわけである。安倍さん、そんなトランプさんと心中するんですか。よしたほうが、安倍さんのためにはいいと思うんですが。

2017年2月7日

 2月3日付の朝日新聞で、「日ロ首脳会談の舞台裏」と題して、国際協力銀行副総裁の前田匡史氏へのインタビューが掲載された。正直に語っていて、まさに「舞台裏」が分かるのだが、あまりに正直すぎて、戦略の欠落を不安に思った。以下のやりとり(抜粋)が、今回の「舞台裏」を象徴している。

 ――しかし、日本が一番欲しかった領土問題での進展はほとんどありませんでした。
 「(北方)4島の名前は全部入りましたよ。これは普通なら入れられなかったと思います」
 ――それは北方四島で「共同経済活動」を進める、という文脈です。それで良いのですか?
 「そうです。(日ロの経済協力で)ロシア側にだけ利点があるものは一つもありません。日本にも利点があるものばかりですから」
 ――もっと取りたかったのではないですか?
 「そんなことはないです。領土問題は、そんなに簡単に行くはずがないと思っていました。(事前に)期待を上げすぎていた面はありますが、少なくとも、良い方向に向かったのは間違いない」
 ――経済協力は北方領土返還に向けた単なる取引材料なのではないですか?
 「それは誤りです。確かに、日ロの経済協力が北方領土問題を解決するための環境作りにもなるという側面はある。ただ、日ロ経済関係の強化は、日本の経済外交戦略としても理にかなっています」
 「今回の経済協力はロシアを一方的に支援するのではなく、日本も便益を受けられるからです。ロシア極東や北極圏でのエネルギー開発が代表例です。ロシアが強く願う開発が進むのと同時に、日本はそのエネルギーの供給を受けられるようになる。特にLNGについては日本は世界の4割を消費しているのに価格決定力がない。ロシアから供給を受けられるようになれば、日本の交渉力が増す。ただ、日本とロシアが同じ戦略的意図で交渉を始めたのではないことを押さえておく必要があります」
 「安倍首相は当時は、より踏み込んだ経済協力は平和条約の後だとお考えになっていたと思います。私に対して『前後関係から言うと、平和条約をやった後じゃないか』とおっしゃった。安倍首相は昨年5月にソチでの首脳会談で、(プーチン氏の本当の意図についての)感触をつかんだのだと思います。日ロの経済協力の重要性に気づかれた。そこから現在の経済協力に至る具体化の作業が始まったのです」

 要するに、経済先行である。安倍首相が「前後関係から言うと、(経済は)平和条約をやった後じゃないか」という考え方を転換したのが、年末の日ロ首脳会談のポイントだったということである。

 だけど、この言い方だと、経済的な利益のためには主権を少しはないがしろにしてもいいんだ、みたいに見えないか。それだと、主権に固執してきた四島派からも全千島派からも、総スカンを食うことになるだろう。

 首脳会談の際の記事で書いたように、領土交渉を動かすには、何らかの大義が必要である。これまでだったら、「領土不拡大」の原則に反したスターリンの横暴を正すということだったろう。それも大義名分にはなる。

 しかし、安倍さんがやろうとしているのは、北方四島をロシアと日本の双方の主権が適用される地域にしようということだろう。それを共同経済活動の推進を通じて達成しようということだろう(たぶん)。そこには、じゃあロシア人なり日本人なりが犯罪を犯したとして、どちらの裁判管轄権がおよぶのかというような、前人未踏の難しい問題が横たわっている。

 けれども、大義はある。戦後70年以上争っていた日本とロシアが、その争いに終止符を打つだけでなく、共同で主権を行使する地域ができるということだ。世界史上かつてない到達を切り開ける可能性があるということだ。

 そこを脇において、LNGをめぐる価格決定で交渉力を増すなんてことに止めていたら、誰も支持しないだろう。安倍さん、大丈夫か?