2018年11月20日

 護憲派の立場として、自衛隊は解消するのだから、新たな立法や予算増には反対するということになると、新たな問題が生まれる。伊勢崎さんが提起している人道法違反を裁く法体系以外にも、次のような問題がある。

 前にもどこかで書いたけれど、自衛官が戦場などで負傷したときの医療措置はお粗末である。泥憲和さんがさんざん指摘したように、現在の救急救命キットでは自衛官の命は救えない。

 そういう現状を打開しようと、政府は、2016年、自衛隊のなかにいる准看護師と救急救命士の資格をもつ隊員に専門的な講習を受けさせることにより、以下のような医療行為ができるようにした。(1)気道確保のための気管切開(2)胸にたまった空気を抜く「胸腔穿刺」(3)出血時の骨髄などへの輸液投与(4)鎮痛剤投与(5)感染症予防のための抗生剤投与という5項目である。

 これは、アメリカが実際に行った戦争から導きだされたものだという。ベトナム戦争で現場の米兵がどうやって死に至ったかを分析し、アフガン戦争ではこれらの項目に対処できるように改善することで、米兵の生存率を高めたという。

 これって、普通は医師の指示なしにはできないことだが、自衛隊は医官を先頭の現場に連れて行くことは想定しておらず(フランスは医師が武器をもって戦場に行き、武器を取って戦いつつ医療行為をする伝統があるそうだ)、准看護師資格と救急救命士の資格を持っている人にやってもらうしか選択肢がなかったのだ。

 当時、社民党の福島瑞穂参議院議員がこの問題で質問主意書を出しているが、そこには「医師以外のものが医療施設以外の場所で実質的な医療行為を行う道を開くもの」「医療法の根幹を変更する内容のもの」として、やるなら法改正が必要だと求めていた。それに対して政府は保助看法の枠内だから問題ないということで法案は提出せず、国会では議論にならなかった。

 しかし、福島さんが求めたように、法案が出てきたら、護憲派はどう対応しただろうか。福島さんの質問主意書の激しさからすると、きっと「反対」という対応をしたことだろう。「自衛隊を海外の戦場に派遣し、戦闘行為をさせることを想定したものだ」等々の理由で。あるいは「戦争する準備をしている」ということで。

 けれども、自衛隊の救急救命措置がお粗末なのは、海外に派遣される場合だけではない。日本有事の場合だって同じ措置、同じ制度しか存在しないのである。実際に日本が攻められるような事態が起きたとして、戦っている自衛官の延命率を高めることは悪なのか。

 もちろんそういう制度があると、海外に派遣される場合も延命率は高まるわけで、海外派遣をしやすくなることは確かだろう。だけど、護憲派は自衛官の命を軽んじていると思われていいのだろうか。

 新たな法整備も予算増も認めないということは、そういうことである。護憲派というのはそういう連中だと思われたら、国民は護憲を選ぶことはないであろう。(続)