2015年3月17日

 この商売をやっていて役得だと思うのは、まだ本として刊行されていなくて、したがって誰の目にもふれていない原稿を読めること。本日も、その感動を味わうことができた。

 「未来への歴史」シリーズを5月に2冊も刊行予定なのだが、そのうちの1冊の原稿を読んだのだ。石田梅岩の生涯と思想を扱った本である。

 石田梅岩、あるいはその心学については、名前は知っていても(教科書に出てくるし)、中身は知らないというのがおおかたの水準だろう。私もその一人にすぎない。

 梅岩って、当初、いわゆる商売の道徳を説いたというイメージがあった。それでもこれを「未来への歴史」シリーズに加えようと思ったのは、企業の不祥事が問題になるなかで、日本的な企業の社会的責任を打ちだした先駆者として、最近、再評価されているからだ。
 
それはそうなのだが、原稿を読んで、そんなものでないことを教えられた。まあ、私なりの紹介は、最終的な原稿が確定してから書くが、学問に対する姿勢とか、士農工商の間の身分差別に対する考え方とか、すごいものがある。

 当時、朱子学の影響があって、知識が詰まっていることをよしとする傾向があったそうだが、そういう学者のことを「生ける書棚」だと喝破したんだって。あるいは、「文字芸者」という言葉で表現したとか。自分の著作が発禁処分になることを危惧していたというけれど、それだけの思想があるのだと思えてくる。お楽しみに。

 「未来への歴史」シリーズのもう1冊は、細井和喜蔵と女工哀史についてである。石田梅岩と同時刊行。
 
こちらは、これだけブラック企業がのさばるいまだから、このシリーズに入ることは最初から当然なのだけれど、細井和喜蔵の伝記って、本格的なものがあまりなかったんだね。それだけ史料もすくないからなんだが、和喜蔵の生きた時代とか、暮らした場所とか、その背景を詳しく描くことによって、生き生きとしたものになっていると思う。

 これで、このシリーズは、古代、近世、近代、現代と揃うことになる。中世は、いま、大学の先生お二人が取り組んでおられて、近く、全ての時代がラインアップされる。うれしいな。

 数年前、歴史書の出版社になろうと決意して、いろいろ構想を立て、いろいろな人にお願いして回った。いまの出版事情のもとで、無謀なことだし、実際、たいしたことはできないのだけれど、心意気がないと、こんな苦しい出版業界で仕事をする意欲は出てこないので、これからも挑戦したい。