2015年3月30日

 安倍さんのこの発言で、「いよいよここまで来たか」と指摘する人が多い。でも、この発言、護憲派自身がどうするかこそ問われる性格のものであるように思う。

 というか、護憲派のみなさんにとって、自衛隊は「軍」なのかどうかということだ。そこをあいまいにしたままでは、安倍さんを追及しても、あまり迫力がない。

 自衛隊が軍隊であることは、護憲派にとっても常識的なところであろう。だから、従来型の護憲派は、自衛隊=軍隊=戦力なので、これを違憲だとしてきたのだと思う。

 つまり、一方の護憲派は、自衛隊を「軍」だと位置づけ、「軍だから違憲だ」と追及してきた。他方の政府は、「軍じゃない」とのべ、「だから違憲ではない」と追及をかわしてきた。これが基本的な構図である。

 だから、安倍さんの発言は、これまでの政府答弁を大きく踏み越えてはいるが、護憲派と同じ認識を述べただけなのだ。それを「正直」と見るか、「開き直り」と見るかでは、人により見解が異なるだろうけれど(なお、当然のことながら、自衛隊のことを「我が」ものだと言える護憲派はいない)。

 護憲派が問われるのは、安倍さんのように、政権をとったときである。国民の多数は、あるいは護憲派自身も、護憲派が政権をとれるとは思っていないので、非現実的な想定だと言われるかもしれないけど、そこは措いておいて、政権をとったときにどうするか考えておかないと、安倍さんを国会で追及したとき、逆襲を受けることになる。

 政権をとったとき、いくつかの選択肢がある。護憲派であるあなたの選択はどれだろう。

 一つ。自衛隊は「軍」だから、憲法違反であって、直ちに解散するのだろうか。だけど、いま見渡してみても、自分たちが政権をとったら直ちに自衛隊を解散すると堂々と主張し、選挙で国民の信を問う政党はひとつも存在しない。それなのに、選挙で公約しないことを強行するとしたら、公約違反じゃないかということで大問題になってしまう。

 二つ。あるいは、政権をとった場合、安倍さん以前の自民党と同様、自衛隊は軍ではありません、だから違憲ではありませんと主張するのか。でも、それだと、自衛隊は軍だと主張している現在の態度と整合性がとれず、野党になった安倍さんから突っ込まれることになるよね。

 三つ。それとも、政権をとった場合、自衛隊は軍であって、憲法違反なのだ、だけれども直ちにはなくさないという態度をとるのか。でも、それだと、政府が憲法違反を自覚していて、堂々とやっていることになる。

 小泉さんがイラクに自衛隊を派兵したとき、国会論戦を見ながら痛感したことがある。それは、政府というのは、自分が憲法違反をしていると認めてしまっては、絶対に政権を維持できないということだった。

 国会でのやりとりを見ていて、小泉さんは間違いなく自衛隊のイラク派遣は憲法違反だと心のなかでは思っていたと感じた。NATOが集団的自衛権の行使だと宣言してやっているのと同じ後方支援を自衛隊がやるのだから、誰がどうみても、自衛隊は集団的自衛権を行使していたのだ。だけど、それを認めたら政権がもたないことがはっきりしているので、小泉さんは「そこが難しいんですよ」と逃げたのである。

 護憲派が政権をとる場合、選挙で自衛隊の廃止を公約にかかげて多数を得るのでない限り、同じことが問われるのだ。いや、護憲派を自負している分、自衛隊を少しの期間でも維持するとなると、「護憲派は憲法違反を堂々とやっている」ということで、嵐のような批判にさらされるだろう。政権が維持できるとは思えない。

 この数年間、この問題でずっと悩み続けてきた。最近、ようやく燭光が見えてきたような気がするけど、それはもっと深めたあとで書きます。