2017年12月29日

 今年最後の記事でして、会社のメルマガに書いたものをアップします。その前に、『改憲的護憲論』で2題。
 集英社の「青春と読書」誌に書いた「『改憲的護憲論』に至った理由」がアップされています。ご覧いただけると幸いです。
 東浩紀さんに献本したんですけど、こんなことをつぶやいていただきました。「ゲンロン」に呼んでいただけるとうれしいです。
 来年1月は、某大新聞社のインタビューとか、某ネットメディアでの「バトル」とか、いろいろ予定されています。ご期待下さい。

(以下、メルマガの記事)

 2017年が終わろうとしています。この年は、みなさんにとって、どういう年だったでしょうか。来年は、どんな年にしたいでしょうか。

 メルマガの読者のみなさんにとって、今年の最大のイベントは、総選挙だったかもしれません。政治が変わるかもしれないという期待が生まれ、でもそれが裏切られる局面があり、しかしそれでも逆転に向かう動きもあって、波瀾万丈でしたよね。

 結局、安倍政権は衆参ともに3分の2を占めたままなので、がっかりしている人も多いでしょう。でも、私にとっては、政治が変わる可能性というか、そのための課題がようやく見えてきた年だったと思います。そして、そのカギとなるのは、弊社が10年前に出版した『我、自衛隊を愛す 故に、憲法九条を守る』以来ずっと取り組んでいるものですが、どうやって安全保障の新しい考え方を打ち出せるかにあると感じます。

 総選挙で躍進し、現在、安倍政治に替わる新しい政治の担い手の1つとみなされるのが、いわずとしれた立憲民主党です。政党の離合集散には目もくれず、頑張っていると思います。しかし一方、共産党を含む野党の共闘で政権をとるということには、きわめて消極的です。枝野さんは志位さんと同席する場になかなか出てこようとしません。

 その根源にあるのは、やはり安全保障政策の決定的な違いでしょう。日米安保も自衛隊もOKという立憲と、日米安保も自衛隊も廃止するという共産では、政策が違うどころか正反対を向いているわけですから、実際に政権をともにしたとして、どうやって政権を運営できるのか、有権者だって心配していると感じます。

 「一致点で運営すればいい」という立場もあるでしょうが、例えば5年に1回は訪れる「思いやり予算」のための協定締結だけでもいいから考えてもみてください。賛成の立憲と反対の共産がぶつかれば、それだけで政権は持たないでしょう。

 そこを回避するため、共産党は、野党連合政権では戦争法以前の自衛隊、日米安保条約は認めると述べています。法律も条約も認めるというのです。ということは、「思いやり予算」も認めるのかもしれません。

 そこまで共産党が譲歩しているのだから、他の他党も歩み寄ってほしいと願う人もいるでしょう。しかし一方で、安保も自衛隊も認めるという共産党中央委員会の方針を、現場の共産党員や支持者が受け入れられるのかという問題もあると思います。何十年も反対し続けてきたことに賛成するわけですから、簡単に受け入れられるとすると、そのほうが不自然でしょう。

 一方で、他の野党の立場に立ってみると、安保も自衛隊も解消すべきだというのが共産党の基本政策なのですから、本当に安保と自衛隊を共産党が認めてくれるのかという心配は消えないでしょう。最後の民進党代表だった前原さんは、共産党と組めなかった理由として安全保障政策での不一致をあげていましたが、そこでの不安は他の野党に共通して存在しているものです。

 ここをどうやって乗り越えられるかが、安倍政治に替わる政治をうちたてる上で決定的だと思います。具体的に言えば、野党が共通して「これだ」と言えるような、新しい安全保障の考え方を打ち出せるかどうかです。自衛隊と日米安保で正反対の方向を向いているが、その新しい考え方では同じ方向を向いていると言えるような、そんな共通の考え方です。

 そのキーワードになると思われるのは、「抑止力から自衛力へ」です。日米安保のどこがダメかと言ったら、その核心は「抑止力」です。抑止力とは、核兵器によって相手国を壊滅させることを宣言することであり、相手国を屈服させるやり方です。これは、相手国からの攻撃があって初めて反撃するという、日本の伝統的な「専守防衛」の考え方に反しています。現在の安倍政権は、専守防衛から反する道をどんどん進んでいます。

 鳩山由起夫さんが「抑止力を学べば学ぶほど」と言って普天間基地の辺野古移設に回帰して以来、民主党は「抑止力」を安全保障政策の中心に据えました。後継の民進党も同じでした。立憲民主党が年末に決めた綱領を見ると、「健全な日米同盟を軸」にするとしています。綱領では「核廃絶」もうたっていますが、核兵器禁止条約に対する態度は曖昧で、抑止力を否定するようなことはしていません。一方、「専守防衛」の立場も明確にしており、今後、核兵器禁止条約に対する態度が迫られるなかで、抑止力を再考する可能性が生まれ、新しい安全保障政策の確立に向かうことも考えられます。

 だからこそ、この局面で、抑止力に替わる新しい安全保障政策を提示していければ、それが野党共通の旗印となるのではないでしょうか。変化の可能性を現実のものとしていけるのではないでしょうか。

 10年前、弊社が出した『我、自衛隊を愛す 故に、憲法九条を守る』の本で、元自民党議員で防衛政務次官だった箕輪登さんが、「専守防衛を守れ」と声をあげました。7年前、防衛官僚トップだった柳澤協二さんが、弊社から『抑止力を問う』を出版し、専門の行政官の立場から抑止力に疑義を呈しました。

 憲法九条改正の国民投票が問題となる来年、これまでの出版をさらにパワーアップさせたいと思います。安倍政権に替わる受け皿となるような安全保障、自衛隊論に関わる本を次々と出して、そこを模索していきます。読者のみなさんの叱咤激励をお願いします。

 

2017年12月28日

 2年前の日韓合意を検証する韓国側の報告が出され、議論になっている。自国の外交のあり方を検証し、今後に生かしていくのは、それぞれの国の自主性に任せるべきことだとは思う。しかし、今回の検証程度の水準では、報告書が提起する問題の解決にはつながらないのではないか。

 韓国の大統領や外相がくり返し述べているように、2年前の合意を7割の国民が受け入れていないという現実がある。そういう世論のなかで、合意に賛成と言いにくいことは理解できる。

 しかし、一方で、慰安婦だった方々は多くが合意を受け入れ、日本政府の拠出で設立された財団からのお金も受け取っている。合意当時に生存していた慰安婦の7割(正確にいうと76.6%)がである。

 なぜそうなるのか。そこを検証しないと、いつまで経っても、この複雑な問題への解が見えてこないと思うのだが、どうだろうか。

 率直に言って、この違いを生み出しているのは、「当事者性」の違いであるように思える。当事者である慰安婦の多くは受け入れているが、直接の当事者ではない一般国民は受け入れていないということである。

 「受け入れたのは高齢になって判断力がないからだ」と言う人もいる。そんなあまりにも失礼な立場は論外だけれども、同時に、慰安婦の方々が合意を100%満足して受け入れたわけではないことも事実だろうと思う。

 慰安婦問題は日韓関係に突き刺さったトゲのような存在だった。慰安婦にとっては、いろいろな希望や願いはあるだろうが、自分が納得しない状態が続けば、そのまま日韓関係は改善に向かわないわけだから、悩みや苦しみもいかほどのものだったか想像できる。残された人生が長くないことを自覚しているからこそ、生あるうちに解決したい(解決したことにしたい)という願いもあっただろう。だから、日韓政府合意に不満な点はあっても、苦渋の選択肢として受け入れたのであろう。

 一方、直接の当事者ではない一般国民にとっては、そこまでの切実性がないということである。当事者の願いをおもんばかるよりも、問題のある点を問題にし続ける「正義」に立場に魅かれているわけだ。

 今回の報告書をもとに、韓国政府は方針を決めるという。韓国の国民が納得しない限り、韓国政府にとって問題が終わらないことは理解できる。しかしなぜ慰安婦が受け入れているものに国民が反対するのかという問題の設定にして世論に呼びかけるのでない限り、韓国の国民の納得を得る手段は見えてこないように感じる。

2017年12月27日

 もちろん、日本選手を全力で応援しますよ。だけど、場所はオーストラリアかな。

 2020年は、安倍さんが改正憲法を施行したいと目標にしている年ですよね。国民を分断することが確実なので、オリンピックで団結を回復しようという腹でしょう。

 その国民投票の結果にかかわらず、オリンピックの期間は海外で過ごすことにしました。2020年の春で退職だし、国民投票に勝ったら自分にお祝いをしないとダメだし、負けたら出直し戦略を考える時間が必要だしね。

 勝った場合も戦略を練り直すのは不可欠で、気を引き締めないと、九条は守ったのに戦争する国になったということになりかねません。だって、ただ勝つのでは、戦争法も何もかもそのままで残るということですから。

 ということで、午前の会議が終わって、講演会場のある三宮へ向かう電車のなかです。立ったまま書いているので、ここまで。明日は真面目に書きます。

2017年12月26日

 ようやく本日、京都に戻します。5泊6日でした。

 昨日は「自衛隊を活かす会」の第15回シンポジウム。「北朝鮮の核・ミサイル問題にどう臨むか」をテーマにして、政治、経済、外交、防衛の専門家をお呼びして、あらゆる角度から議論しました。北朝鮮問題が議論される場面はどんどん増えていますが、これほど包括的に、冷静に議論する機会は、あまりないのではと思います。たぶん、弊社から本にすると思いますので、ご期待下さい。

 元陸上幕僚長の冨澤暉さんが、ミサイル防衛システムについて、「ないよりは、あった方がいい」という言い方をしておられました。これって、普通の人びとの感覚だと思いました。「これでミサイルを防げる」みたいな勇ましい議論は、ほとんどの人が信じていないでしょう。同時に、「配備すべきでない」という議論も、国民の不安感からかけ離れています。そこを、制服組のトップだった方が、うまく表現してくれました。

 太田昌克さんのお話を伺うのは、今回が初めてでした。だけど、太田さんが書いた本は、核問題の闇を解き明かす貴重なものなので、ほとんど読んでいます。昨日のお話も、ジャーナリスティックであると同時に、非常に専門的で、貴重なものでした。同時に、日本の核武装の可能性について質問され、記者(共同通信)として最初に配属された広島で知り合った被爆者の話をしながら、絶対に核武装は許されないと熱く語っておられて、そういう信念がお仕事を支えているのだと分かって、納得させられました。

 北朝鮮経済論をお願いした今村弘子さん(富山大学教授)。北朝鮮の核・ミサイル問題を論じるうえでは経済のことを知らなければと、「自衛隊を活かす会」の呼びかけ人と議論になったとき、すぐに頭に浮かんだのが今村さんでした。10年ちょっと前、『北朝鮮 虚構の経済』(集英社新書)という本を出されていて、すぐに読んで感動したんです。経済分析もそうですけれど、北朝鮮経済を立て直す方策みたいなものも提言しておられたんですね。核・ミサイル開発も含む大型の経済プロジェクトではなく、農業など小規模な経済振興を提唱しておられて、北朝鮮の国民のことも考えているし、核・ミサイルを拒否する方向性も明確だし、一度お話を伺いたいと思っていました。

 そして柳澤協二さんのいつもの合理的で、深いお話でした。早めに本にしたいと思います。

 さすがに疲れたので、本日はここまで。明日は午前中が本社の大事な会議で、午後は神戸で講演会。なかなか休めませんね。

2017年12月25日

 年末の27日なんですけど、そして平日なんですけど、知人が『改憲的護憲論』(集英社新書)の出版記念講演会のようなものを開いてくれます。チラシを添付しますが、お暇なら、いかがですか。

第23回中島淳のアジト談義・松竹伸幸

 会場は神戸市で、三宮駅から南へ徒歩3分。ロフトのビルの上にあるんです。「メガネの三城」のなかにあるお部屋です。

 言いたいことは本に書いているので、同じことはお話ししません。レジメをつくりながら考えたんですが、「護憲」ということは、自衛官に向かって、「おまえたちは未来永劫、違憲の存在であり続けろ」と言うことなんですよ。そういうことを言って、国民多数に受け入れられる方法って、あるんでしょうか。それを考えるのが、お話の眼目です。

 本日はまだ東京にいて、自衛隊を活かす会のシンポジウム「北朝鮮の核・ミサイル問題にどう臨むか」です。いい中身になれば、本にしたいと思います。

 27日のレジメは以下です。終了後に懇親会もあります。

一、自衛官に「違憲でいろ」と言える条件
 1、「自衛隊を認めるのにとどまらない」けれど
 2、違和感が伝わると国民世論から遊離する
 3、自衛隊が抱える矛盾をわが事として思えるか

二、仲間を増やすとはどういうことか
 1、相手を「敵」にしたら仲間にはならない
 2、政策面での歩み寄りによる共感を増やす
 3、政策以前に必要な人間としての信頼関係

三、何のために「九条」を守るのだろうか
 1、「護憲」だけでは戦争する国になる現実
 2、平和のために自衛権、自衛力は不可欠だ
 3、中心課題は安保廃棄でなく抑止力からの脱却