2013年10月8日

 で、訳は紙屋さんにすべて依存するとして、本としての形にするのに、どうするのか。訳文をそのまま出すのか、それともイラストなども使って、表現の仕方を変えるのか。そこが問題でした。

 私は、基本は、文字で行く派なんです。通じる言葉があれば、通じる。そう思って編集をしてきたし、自分の本も書いてきました。文字が通じることを否定するのは、自分の仕事を否定することですからね。

 でもこの本は、イラスト付きだと思いました。本にすると決めた、その瞬間からです。

 文字では通じないから? そんなことはありません。文字だけで、すごく評判になったと思います。実際、うちのつぎに紙屋さんにアプローチした大手は、そういうやり方を考えていたようでした。

 でも、その通じ方が、イラストをいっしょにすると、何倍にもなると思ったんですよ。相乗効果がある分野の本だということです。だって、マルクスですよ。これだけ超訳が流行っている時代なのに、マルクスの超訳なんて誰も考えなかった。その上、マルクスとイラストの組み合わせなんです。マイナスとマイナスをかけてプラスです。これが成功したら、マルクスの価値が数倍あがりますよね。

 もちろん、それはイラスト次第。でも、成算があったわけですよ。このイラストレーターがいるので大丈夫だと。それが、今回書いてもらった加門啓子さんです。私の古いブログにも、これまで2回、本人が登場して書いています。イラストレーターではなく表紙の装丁者としてですけど。伊波洋一さんの『普天間基地はあなたの隣にある…』の本と、『オスプレイとは何か 40問40答』です。

 彼女のイラストとか装丁とかデザインとか、よく「かわいらしい」と言われます。固い文章を緩和して、読む意欲を持たせてくれると。

 それは否定しません。私も最初、そう思って、いろいろ頼んでました。

 だけど、私にとって、このイラストは、「かわいい」というより、「強い意思」を感じます。「主張」と言ってもいいです。「それは間違っている」とか、「こう変えたい」とか、「手をつなごう」とか、その他その他。そういうものが表現されています。

marx93
 装丁するときもイラストを描くときも、すごく勉強して、考えて。私なんかが「ここまでできてうれしいな」と喜んでいるときでも、「松竹さん、こんな程度で満足していていいんですか!?」と詰め寄ってくるような意気込みがあるんです。だから、マルクスを主題にしても、がっぷり四つになっていると、私は思います。(続)