2013年10月10日

 朝日新聞の8日付に、民主党野田政権のもとで、慰安婦問題の政治決着が寸前のところまでいっていたことが報道された。以下のような3つの内容で合意に向かったということだ。

(1)政府代表としての駐韓日本大使による元慰安婦へのおわび
(2)野田首相が李明博大統領と会談し、人道的措置を説明
(3)償い金などの人道的措置への100%政府資金による支出

 この問題をよく知る方には説明は不要だろうが、これは微妙な内容だ。二つの側面がある。

 一方で、元慰安婦に人道的なお詫びの言葉を政府(総理大臣)から伝えるのは、この問題で運動する市民団体が批判してきた過去の水準と同じである。法的責任をとらずに人道的責任で済ませようとしているという批判である。だから、これでは受け容れられないだろう。

 他方、100%政府資金による支出というのは、新しい感じがする。アジア女性基金は、運営費は税金だったが、慰安婦にわたった償い金は民間からのカンパだったということで、強く批判された。慰安婦問題に対する政府の責任を認めるなら、税金で支払うべきであり、そうでないのは責任を回避するやり方だという主張が強かった。

 そのことを考えると、政府が100%支出するというのは、大きな前進のように見える。人道的措置という名前はついているが、中身は賠償に等しいと言えるものだ。

 でも、法的責任を認めないという形式は崩せないのだから、「これでは絶対にダメ」という方々も少なくないかもしれない。しかも、政府出資って、アジア女性基金のときも想定されていた水準のものだ。

 そのことは、この問題で重要な役割を果たした大沼保昭さんが中公新書で書いている。慰安婦に渡す額は決まっていたから、カンパがその額に足らない場合はどうするかという問題があって、それを橋本龍太郎首相に聞いたら、「まかせておけ」と言われたそうだ。

 きっと、外務省のなかでは、人道的措置であっても税金の支出は可能だという考え方は、当時からあったのだろう。それを野田政権のもとで具体化したということだろうか。

 いずれにせよ、安倍さんがどう動くかは別にして、この水準ならば、現在の政府のもとでも実現可能な条件があるということは、はっきりした。この段階で、この水準を実現するために闘うのか、いや「法的責任」に言及しない合意はイカサマだというこれまでの立場を貫くのか、市民団体は問われていると思う。(続)