2014年10月28日

 「慰安婦問題は、日韓関係に刺さった大きなトゲである。日本の植民地支配に起因していることは間違いないのだから、真摯な反省のもとに対応することが重要だ」

 これ、最近発売された本(奥付は9月30日)からの引用です。タイトルは、『徹底検証 朝日「慰安婦」報道』(中公新書クラレ)。その最後の段落にある文章で、著者は「読売新聞編集局」。

 慰安婦問題が存在することも、それが植民地支配に起因していることも、「真摯な反省のもとに対応」すべきことも、読売は主張しているんです。いま、この瞬間にも主張しているんです。まあ、通常は、こうした文章の後に激烈な朝日批判が続くので、そっちに目を奪われるのかもしれませんけどね。

 でも、そのことを無視して、読売などの右派メディアをただただ糾弾するようなやり方は、私は正しくないと思います。間違いをしでかした朝日を擁護して、その間違いを指摘してきた右派メディアを叩くということですし、しかも、実際に読売が主張していることをねじ曲げるわけですから、世論をどんどん相手側に追いやっていくことになると懸念します。

 いや、たとえ読売などがそう言っていても、それは建前であって本音は違うのだと考えることも可能でしょう。そして、そういう右派メディアの本質を暴き出すのが、慰安婦に寄り添い、その願いを叶えようとするものの使命だと。

 だけど、それでどうするんですか。慰安婦のことが問題になって20年以上です。そういう立場は、河野談話から村山談話に至る最初の時期が最盛期で、その後、どんどん国民の支持を失っていきました。逆に、安倍さんのような人が支持を得て、現在のような政治情勢になってきたわけです。

 それは、なぜなんでしょうか。左派の主張は正しかったのに、宣伝が足りなくてそうなったんでしょうか。その主張をもっと大規模にやれるようになれば、いつか安倍さんが考えを変えてくれて、慰安婦に対して国家補償をする側に回ると思っているんでしょうか。あるいは、自分たちで政権をとれる日がくると思っているんでしょうか。それも、慰安婦の方々が生きている間に。

 私はそうは思いません。読売や産経は、左派が河野談話を口を極めて批判していたときに、不満はあるが河野談話の線で行こうと主張してきたメディアです。いまだって、朝日をバッシングしているけれど、冒頭で述べたような考えも表明しているのです。

 それだったら、河野談話を糾弾した自分の過去を反省し、河野談話で行こうとした読売や産経を糾弾した過去についても反省し、あの時は批判して申し訳なかったよね、頼むから再びその河野談話の線まで戻ってくれとお願いするべきでしょう。反省なしに批判しても、誰も本気にしてくれないと思いますよ。だって、いつのまにか河野談話の批判者から擁護者になったということでは、いつまた河野談話の批判者に戻るかも分からないんですから。

 その上で、「真摯な対応」ってどんなものだろうか、植民地支配に起因しているのだから、どんな対応が考えられるだろうかって、持ちかけていくべきではないでしょうか。私はそう思います。そうじゃないと、国民多数の世論を背景に安倍政権に何かをさせるって、無理でしょ。(続)