2014年10月30日

 <先日、神戸で講演した際、聞きに来られた方のなかに神戸高校17回生・9条の会(そんなのがあるんですね)の方がいました。私が同校の25回生だと知って、会報への寄稿を依頼されましたので、以下の雑文をお送りしました>

 私は、京都に本社のある「かもがわ出版」の編集長をしています。憲法9条を守るということは、弊社が出版する本の一つの柱です。ただ、同じ護憲であっても、出版の方向性は護憲他社とはかなり異なります。9月29日の神戸新聞にも掲載されたのですが(添付)、別の角度から紹介させていただきます。

 9条の会ができた頃、多くの方は、自衛隊のない日本をめざすことが大事だと考えたことでしょう。もちろん私も、究極的にはそれが理想です。しかし、それを差し迫った現実的な課題にしてしまうと、国民多数の支持は得られないと私は考えました。だって、どの世論調査を見ても、自衛隊の縮小を望む人は、数パーセントしかいないのです。廃止派はもっと少数です。国民多数は自衛隊を認めていて、とくに侵略の防止、災害救援の役割を期待しているという現実から出発すべきだと思うのです。

 そこで7年前、防衛省の元高官の方々にお願いし、『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る』という本を出しました。帯の文章を、防衛庁長官をつとめた加藤紘一さん(元自民党幹事長)にダメ元でお願いしたら、快く引き受けてくれました。自衛隊の準機関紙と言われる「朝雲」の1面に広告を載せました。幸い、大きな反響があって増刷を重ね、自衛官からの注文も少なくありませんでした。

 この本は、自衛隊は専守防衛に徹すべきであって、海外派兵を許してはならないという立場のものでした。一方、国民のなかには、アメリカと一緒に軍事介入するのはゴメンだが、国連平和維持活動のような国際貢献に自衛隊が参加するのは当然だとする世論も強くあります。

 そこで6年前、『自衛隊の国際貢献は憲法9条で』という本を出しました。著者の伊勢﨑賢治さんは、シエラレオネに派遣されたPKOの武装解除部長でした。内戦終了後の不安定なシエラレオネに行き、丸腰で武装勢力に対して「武器を捨てよう、仕事は保証するから」と説得し、短期間で国内に存在していた全ての自動小銃(カラシニコフ)を回収してこられた方です。その後、アフガニスタンでも同様の仕事を行い、憲法9条をもつ日本人だからそれができたのだと確信し、丸腰・非武装の自衛隊を派遣して戦争を終わらせることを提唱しています。

 4年前、『抑止力を問う』という本を出しました。著者は柳澤協二さん。防衛省に40年務め、小泉首相がイラクに自衛隊を派遣したあと、その統括をしろということで内閣官房副長官補(事務次官待遇)に抜擢された人です。安倍(第1次)、福田、麻生さんと4人の自民党首相に仕え、定年退職しましたが、民主党鳩山政権が普天間基地問題で迷走したことに怒り、朝日新聞に「沖縄に海兵隊はいらない」という趣旨の論考を発表したのです。それを見て、是非、本を出してほしいと持ちかけました。

 その柳澤さん、伊勢﨑さんらに呼びかけ、今年6月につくったのが、神戸新聞で紹介されている「自衛隊を活かす会」(正式には「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」)です。

 安倍首相の路線への対抗軸として、よく「軍事か外交か」と言われます。でもそれでは、軍事も大切、自衛隊も必要という人を結集できません。しかも、安倍さんの軍事は、これまでの自民党の専守防衛から大きく踏み出るものであって、保守の方はまともな防衛政策を望んでいます。憲法9条のもとでの自衛隊の可能性を探るのが、この「会」の目的です。自衛隊を認める人びとに9条のままでもいいのだと分かってもらうのが趣旨です。ご注目いただければ幸いです。□