2016年3月9日

 と思うんですが、どうでしょうか。なんだか、「日本は世界中を敵にまわしている!」みたいな受け取られ方、してしまいますよ。

 だって、そもそもこの最終所見、いろいろと書いているけれど、「年末の日韓合意の実施に当たって、当事者の声を聞きなさい」というのが大事な結論なんです。合意を覆せなんて言ってないどころか、日韓合意を実施することは当然の前提になっているんです。

 合意に至る過程で当事者中心のアプローチでなかったと批判しているけれど、合意の中身までは批判していません。最終所見を受けて韓国政府が、合意の内容には慰安婦の声は反映しているとコメントしましたが、実際にそうだと思います。

 韓国政府は(最近の日本政府は違いますが)、ずっと慰安婦の方の意見を聞く立場にあって、その要望がどこにあるか十分に知っているわけです。だから、合意するにあたって、要望を無視するはずがない。外交交渉だから、日本とのやりとりを逐一報告し、合意を取りながら進めるというやり方はとれなかったけれど、内容的には反映されているわけです。

 いま大事なのは、最終所見が言うように、合意を実施しましょうね、それにあたって合意がスムーズに実施されるよう、当事者のご意見をよく聞きましょうねというアプローチだと思います。韓国政府が当事者の意見を聞きやすい環境をつくってあげることだと思います。日本政府が女性差別撤廃委員会を目の敵にすることは、そういう環境作りに逆行するでしょう。

 政府代表がメンバーとなる国連人権理事会と違って、この女性差別撤廃委員会とか、自由権規約委員会とかは、人権問題に詳しい個人の専門家からなるものです。政府代表というのは、あくまで政治的な判断をするので、政治的に歪んだ判断を下すこともありますが(人権理事会が欧米の人権問題を批判しないことに開発途上国からはずっと強い批判がありました)、同時に政治が達成したことには寛容だったりします。だけど、個人からなる委員会は、個人の信念で行動するわけです。

 だから、その判断は、理想に傾きがちです。でも、それでいいんです。この種の委員会って、政府が何年かごとに報告書を提出して、それを審査するんですが、報告すべき中身というのは、前回報告以来どの分野でどんな進歩を達成したかというものです。つまり、常に「進歩」していなければならないのです。完全に条約の水準を達成した、これで満足という状態は想定されていないわけです。

 人権問題をそうやって進歩させるために、わざわざこの種の委員会がつくられているわけですから、強い批判を受けるのは当たり前と思っていないと、政治における妥協と(日韓合意)国際法が求める理想と(最終所見)の関係が見えてきません。日本政府には、人権問題を扱う国連の構造全体を、よく理解して発言し、行動してほしいと思います。