2013年7月11日

今年初め、スポーツと暴力にかかわることが大問題になりました。大阪の桜宮高校のことが最初でしたが、その後、女子柔道界のことも話題になってきます。

4月には弊社が後援して、この問題でシンポジウムも開催。ちょうど、私が大学生の頃に体育・保健の先生だった方が、暴力をなくす取り組みで中心的な地位におられたので、その先生と連絡をとって開催にこぎ着けたものです。

これらの取り組みが、この夏から秋にかけ、ようやく結実しそうです。ふたつの本を出す予定です。

ひとつは8月、『先生、殴らないで!』という本になります。教育学者の三輪定宣先生、スポーツ社会学者の川口智久先生が編者の本ですが、本の冒頭に来るのはプロ野球解説者である桑田真澄さんへのロング・インタビューです。これは、タイトルからも明確なように、学校スポーツにおける暴力・体罰という問題を考える本です。

もうひとつは9月、『スポーツから暴力を根絶するために』(仮)です。この冒頭を飾るのは、女子柔道の山口香さんです。全日本選手権10連覇、世界選手権金メダル、「女姿三四郎」の異名をとった方ですね。こちらは、トップアスリートを育てるということのなかで、暴力・体罰をどう考えるかということが大きな主題になるでしょう。

桑田さんは、桜宮高校の事件が起こった直後、朝日新聞で暴力を否定するインタビューに登場し、評判になりました。その後も、教育の現場で、いろんな取り組みをしておられます。

だけど、桑田さんの主張が本になるのは、これがはじめてです。いろいろな出版社からオファーがあったようですが、かもがわ出版を選んでくださいました。まじめな研究者の方々が書く本だということを評価していただいたようです。センセーショナルにこの問題を取り扱ったり、「売らんかな」の姿勢が露骨なものは、桑田さん、肌に合わないのだと思います。

全体の構成は以下の通りです。他にコラムも充実しています。
スポーツマンとして許せない暴力……桑田真澄
部活での暴力はいつから始まったか……坂上康博
暴力の思想を超える水泳指導……平野和弘
私の体罰否定論……土肥信雄
人間にとってのスポーツの意味とは……川口智久
学校と体罰・暴力の関係史……三輪定宣

桑田さんのインタビューの一部をご紹介しておきます。これだけ読んでも、残りの部分がどうなっているのか、気になりませんか?

「時代は流れ、道具も進化し、野球自体も進化してきました。野球界の何が進化していないかというと、指導方法だけです。指導者だけが進化していないのです。……選手はこっちに投げるか、あっちに投げるかを一瞬で判断しなければなりません。自分で考えて行動できる選手を育てなければいけないのに、普段から監督の指示したことだけをやらせて、それ以外のことをしたら殴るというのでは、育つわけがない」

山口さんは、最近、『日本柔道の論点』と題する本を出されました(イースト新書)。柔道界全般の問題点を解明した、とても貴重な提言の本です。

弊社の本で山口さんは、指導者の暴力という問題を特化して論じてくれます。イギリスに留学するなどして、指導者としての研鑽をずっと積んだこられた方ですから、とっても説得力があります。

しかも、ご自分の個人的体験も、指導者として血肉にしているところも素晴らしいです。母親になって、子どもを育ててみて、自分の子どもさえ自転車に乗せるのにこんなに時間がかかるのかって自覚して、人を育てることの意味を考えた話なども、とっても貴重だと感じました。

スポーツ行事の多い夏、そしてスポーツの秋、是非、これらの本を手に取ってみてください。